やまのこ保育園

惑星のようす

"光や影を通して世界とつながる"

2023.11.01
光や影を通して世界とつながる

Text : Kanae Teshigahara

やまのこhomeの窓から西陽が入り始める頃、窓辺のサンキャッチャーが壁に美しい虹色の影を映していました。サンキャッチャーが動くたびにその虹色の影も動きます。

最初に気づいたIさんが「虹!」と言い、嬉しそうに影を指さしました。他の子ども達もじっとその虹色の影を眺めたり、何人かの子は影の動作に合わせてジャンプをしたり身体を揺らして踊っているようでした。それから太陽が雲に隠れると虹色の影の色は薄くなりすうっと消えて行きました。

「虹、もう一回!」と言うIさん。
「太陽さんが出てきたらまた見れるかなぁ」と答える私。

虹をもっと見せて!と言うこともなく、子どもたちは私の言葉を不思議そうな表情で聞いていました。そして陽の光に合わせて虹色の影が出たり消えたりする様子を眺めていました。この後もサンキャッチャーの虹色の影が室内に現れる日常は続き、その度に子ども達は「虹!虹!」と特別なものを見つけたように嬉しそうにしていました。

私はこの体験から子ども達が、”そこにあるのにそこにない”というような光と影の特性と出会うことは、子ども達が自分と世界(空間や自然環境)がどのように繋がっているのかについて不思議に思ったり、探求する機会になるのでないかと考えるようになりました。そして自然光だけでなく、環境のコントロールがしやすいライトテーブルやオーバーヘッドプリンターなどの人工的な光も用いながら光と影を感じる環境づくりをしてみたいと考えるようになりました。

最初に試したのは窓にカラーセロファンで果物や生き物のシルエットを作って貼り、影の色や形から光や影と出会うという環境作りでした。この環境はサンキャッチャーの時と同様に室内に西陽がさすと、床やテーブルに果物や生き物の色がついた影が現れました。

子ども達は床やテーブルに映る果物や生き物の色のついたシルエットを見て、「見て!りんご!」「バナナ!」と声に出した後にそっとその影を触ったり捕まえようとしました。

そして影に近づくと自分の身体にもその影が映し出されることに驚いていきました。
「Sちゃんりんごになっちゃった」
自分の足に写ったりんご型の影を見てそう呟いたSさん。自分の身体に映る影を不思議そうに触っていました。Aさんは拓人さんが赤色のセロファンを近づけると、赤くなったテーブルや自分の手をじっと見つめていました。

 

次にライトテーブルを使ってさまざまな光の色を感じ対象をとらえる環境づくりを2つおこないました。

1つ目はライトテーブルの上で絵の具を使い、光を通して色彩、水、紙を感じる活動です。ライトテーブルの上に薄紙を置き、絵の具で描いたりスポイトを使って色同士の混ざり合いや水の滲みと出会うことをしました。この環境では、子ども達は薄紙の上に何種類かの色水をこぼして手で描くことしていました。色水がライトテーブルの上で混ざりあう様子を見ながら、ライトテーブルを指差して「かなかな」と声に出すMさん。

大人がMさんに「さかな?」と聞くと「かな」と返ってきました。この場面の前後ではMさん自身は何かをイメージして描いているというよりは純粋に色水と紙に出会っているように見えたのですが、みんなでライトテーブルの上に描いていた色と形の中にたまたま”魚”を連想し声に出していたのかなぁと想像しました。

 

スポイトと色水を使って遊ぶ環境では、ライトテーブルの上にスポイトと何種類かの色水を入れた透明な容器を置きました。Lさんが「Blue!」と言ってスポイトで青い色水を吸い取り、「Pink!」と言いながらピンクの色水が入った容器に青い色水を流し入れていました。そして混ざった色水を指差し「Purple~!」と言って手をたたいて喜ぶ場面がありました。この後も実験するように何種類かの色水を混ぜる姿が見られました。
Lさんは色彩への感度が高まっているように感じる時期だったので、ライトテーブルの光でより色水の色彩が際立ち、色同士が混ざる様子を見て感覚が刺激されているのかなぁと感じました。

 

2つ目の環境づくりでは、ライトテーブルの上で半透明のカラーブロックや色水の入ったボトルを使い、光を通過した物体の色や形を感じ触ってみる体験をしました。
YくんとSさんは同じ色、似た形のブロックや似た色同士のボトルを並べて「同じ~!」と顔を見合わせていました。興味深かったのは、このブロック遊びが発展して、絵本「ピリンポリン」の中からブロックと似た形を見つけて絵本の上に置いていく遊びに繋がっていったことでした。

 

最後はオーバーヘッドプリンターを用いて、光源や様々な素材の位置、それらの間の距離を変えたりしながら、子ども達自身が光と影の世界に入り身体的に光と影を体験しました。オーバーヘッドプリンターの光源の上にはプラスチック製のカップやセロファンなどさまざまな素材を置きました。いつも日常生活で目にしているようなプラスチック製のカップは幾何学的な平面の影となって壁面に大きく映し出されます。立体的なものであっても光を当ててできた影や透過する光が作り出す像を見ることによって対象を直視した場合とはまったく異なる映像が現れました。対象と光源との距離を変えながら、投影される像が大きくなったり小さくなったりする様子も興味深かったです。

セロファンを手で持ち、光源との距離を変えながら動かすと、壁一面に色がついたり、色の影が動いたりしました。この時にSさんが影の動きに合わせてジャンプをして笑っていました。Lさんは壁一面に変わる色を見て「Red!」「Green!」など色の名前を言って不思議そうに眺めていました。そしてプリンターを消すと光と影の世界は消えて真っ暗になります。子ども達はあの世界はなんだったんだろうと不思議な表情をしていました。

 

今回、やまのこhomeの子ども達と共にした光と影の世界を感じる活動を通して、光と影が持つ不思議さに子ども達が出会うことがまずとても大切であると感じました。色の光や影を見て面白い!きれい!美味しそう!いろんな魅力を感じて触ろうとすると触れない、そんな光と影の不思議さはその奥にどんな秘密が隠されているのか知りたくなります。光や影が持つ素材の特性やそこから生まれる遊びは子ども達の想像の種を育み探求の世界へと誘ってくれました。

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