やまのこ保育園

惑星のようす

"冒険は、道端にある"

2023.03.30
冒険は、道端にある

Test : Takuto Kashiwagi

 

homeで0-2歳児と過ごすようになり、私の心が一番動いたこと、それは「冒険」が身の周りにたくさんあることです。

yamanokoで3-5歳児と過ごす中で、園庭や近隣の遊び場(くねくね山や滑り台公園など)では飽き足らない子どもたちの姿を見てきました。思いっきり身体を動かしたり、多様な生命に出会ったり、五感で自然=地球の豊かさを感じてほしい、そしてチャレンジしたり、「なにこれ!?」という出会いがある冒険の楽しさを味わってほしい、そんな思いで、森や海、川といった野外遊びのフィールドを広げてきました。

「homeの子どもたちとも、いろいろな環境での遊びを楽しみたい。年齢が小さくたって、フィールドに出れば、子どもたちは自らの身体を使って学びを獲得していくはずだ。どんな環境が、この人たちの楽しさを引き出すのかな?広い空間かな?凸凹かな?けやきの森の広場だったら行けるかな?」homeで暮らすようになったばかりの頃の自分は、そんな風に考えていたと思います。

ところがある日、そんな自分の考えを上書きしてくれるような、子どもたちの姿に出会いました。

 

雪が降る前の頃です。歩くことが楽しい1歳児4人と保育者2人で手を繋いで散歩に出ると、Rちゃんが「いしころ!」と言って立ち止まりました。その頃Rちゃんは、おにぎりのような形の石ころ(舗装の骨材に使われている、よくある砕石です)を拾うことを楽しんでいました。Rちゃんが立ち止まったことで、結果的には4人全員がその場で立ち止まり、遊びを見つけ始めました。その日は、滑り台公園を目指して歩き始めていたこと、そして立ち止まった場所が駐車場のすぐ隣であったことから、保育者が何度か、先に進む声掛けや場所を変える声掛けをしました。けれど4人は、その場所から離れません。

そこで保育者は、車の動きに気を配りながら、子どもたちの遊びの世界に入ってみることにしました。4人は、路上のほんの少しの凹みに溜まった砂を囲んでいます。Cちゃんは路上に座り込んで砂を両手でかき集め、集めた砂を片手で持って排水溝にパラパラと落としはじめました。Rちゃんは「これと、これと、」と言いながら片手で砂を拾い、その砂をもう片方の手に集めています。Mちゃんは握った両手を差し出してきて、保育者が手を出すとその手に砂をパラパラとまきます。そして、保育者の手の平に砂がたまると、その砂を再度はたき、地面に落とします。Nちゃんは砂を手のひらでサラサラとかき混ぜたのち、「いってきます!」とその場を離れ、しばらくすると「ただいまー!」と帰ってきていました。この場所での遊びが30分ほど続いたでしょうか。その日は結局、公園にたどり着くことはありませんでしたが、園に帰ってきた子どもたちは、満ち足りた表情をしていました。

 

もう1つ、印象的なエピソードがあります。

その日は、木枯らしが吹いた後で、地面にはケヤキの枯葉や木の枝がたくさん落ちていました。1歳になったばかりのSくんは、公園でも歩いたりハイハイしたりを繰り返していました。ハイハイしていたSくんは、1つの小さな枝の前に来るとハイハイをやめ、じーっと枝を見たのちに、枝をつまみ上げて近くにいた保育者に手渡しました。またハイハイを始めるとすぐに、Sくんの目の前に別の枝があらわれました。Sくんはまたその枝をじーっと見て、つまみ上げ、まるで初めてのものに出会ったかのように枝を見つめていました。

枝を見つめるSくんの目つきがあまりにも真剣だったので、「何がそんなに不思議なんだろう?」と不思議に思い、私はSくんの目の高さに自分の目を揃え、Sくんと同じくらいの近さで枝を見つめてみました。すると、枝の節々の凹凸が際立ち、表皮の一部が少し光を反射して艶やかに見えてきます。さっきまで同じように見えていた2つの枝を見比べれば、長さも形も全く違うことに気づきました。当たり前ですが、2つの枝は別々の”モノ”でした。いつの間にか私は、2つの枝を同じ「枝」だとカテゴライズして認識してしまっていたのです。

きっと、石ころや砂で遊び続けた1歳児の4人も、Sくんと似たような視点を持っていたのだと思います。道端に落ちている石や枝を見た時、大人だったら「あぁ、石でしょ」「うん、枝ね」と反応しかねません。けれど、四つん這いだったり、立っても目の位置が大人の膝の高さ程度の人たちにとっては、目の前にあるモノがよく見えていて、一つひとつがユニークなのだと思います。きっと彼ら彼女らにとっては、道端にあるもの全てが「なにこれ!?(おもしろい!)」の対象なのでしょう。

 

振り返れば、3-5歳児と海や森にいく中で私が大好きだった瞬間も、子どもたちに「なにこれ!?(おもしろい!)」という出会いが訪れる瞬間でした。そして、その出会いが生じる過程こそを、私は「冒険」と呼んでいました。身体が大きく、目の位置も高くなった3-5歳児にとっては、その出会いが起こりやすいのが海や森だったわけですが、0-2歳児にとっての冒険は、道端(あるいは家の中ですら)でもできるわけです。

おそらく私も、旅や自然を通じて「なにこれ!?(おもしろい!)」を求めてきた1人の人間です。けれど子どもたちと過ごす日々の中で「なにこれ!?(おもしろい!)」は外環境だけでなく、自分の視点の変化によって生まれることも、教えてもらっています。文字通りに視点を変えたり、カテゴライズせず目の前のものにじーっと向かいあえば、大人にとっても「なにこれ!?(おもしろい!)」は身の回りにたくさんあります。大人だって、道端で冒険はできるのです。

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