やまのこ保育園

惑星のようす

"やまのこの2022年"

2022.12.28
やまのこの2022年

Text : Tomoko Nagao


2017年9月に開園したやまのこは、今年の秋に5歳の誕生日を迎えました。これまで2つのやまのこに在籍した子どもは93名。93名の子どもたちと、そのご家族たち、そして今は離れたメンバーを含む30名を超えるスタッフや、その他多くの関係者の皆様が、それぞれに惜しみない力を使い、都度ベターを考えてこの場を作り続けてくださったり、応援してくださっているからこそ、やまのこの今日があります。この場を借りて全ての皆様に心からの感謝をお伝えします。

0-5歳は人間でも著しい変化の時期ですが、やまのこもまた、一つの生きた生命体であり、変化の5年でした。2022年の年の瀬にあたり、変わり続けるやまのこの今年の出来事をいくつかお伝えします。

アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス《シュガリング・オフ》1955、個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)


スタッフの部活動の発足

2022年5月の職員研修合宿にて大人の部活動が発足しました。子どもたち一人一人の興味や関心、挑戦を応援するこの場所において、働く大人もそれぞれの得意なことや好きなこと、そして挑戦していることに感度を持って集まり、そこを起点に試行錯誤や対話を通して保育や環境をアップデートしていきたい。そして、この場所を豊かにしようと働きかけていく時に、誰かが決めた担当や分担ではなく、自身の得意や好き、課題意識を生かしてこの場に関わり、やまのこを耕していきたい。そんなメンバーの発案から、スタッフの部活動は始まりました。


子どもたちの保育環境に直接的に関わるガーデン部/生きもの部/発達部/保健部/あそ部/表現部/アーカイ部/安全管理部に加え、パートナーである保護者とのコミュニティを耕していくペアレンツ部や、大人の学びや働く環境を作っていくための研修部/働き方部/デジタル整理部、そして、やまのこの取組みや試みを社会に還元していくことにアンテナを持った発信部などがあります。

 

両園の保育者が保育の合間に時間を作って集まり、視点を交わらせながら部活動ミーティングが行われています。ミーティングは想いや願いを懸命に形にしていくコミュニケーションの場であり、試行錯誤の場であり、そして、創造が生まれていく熱のある場です。
各部活動がエンジンとなり、畑の開
墾(ガーデン部)や、ペアレンティングクラスの展示(ペアレンツ部)、おしゃべりナイト〜生き物編〜(生き物部)、1歳までの身体の発達にかかわる保護者向けワークショップの開催(発達部)などが実現しました。また、保育環境のアップデートを目的に子どもたちの庭での遊び方を検証したり(あそ部)、安全性向上のために実効性の高い不審者訓練を工夫してプランニングをしたり(安全管理部)、子どもたちの記録をより活きたものにするためのアイディアを議論したり(アーカイ部)、5年分蓄積したデータの整えに注力したり(デジタル整理部)、開園時からの保健関連のシステムを問い直して再編したり(保健部)、アトリエ環境作りや絵本の選定や読み聞かせの工夫を行ったり(表現部)と、あらゆるところで、毛細血管のようにやまのこに血を巡らせ、場を温め、代謝と更新を促進するシステムになってきています。

私たちの暮らしの場が、系統だった垂直型の一つのシステムではなく、各部活による多角的なアプローチと様々な関係性の絡み合いによって更新されていく、その日々の蠢きに大きな喜びと心強さを感じる2022年でした。


保護者と保育者と子どもたちの光景
-感謝祭、芋煮会、そして、園庭開放、八森山で遊ぶ会

やまのこの保育目標に「子どもたちが成⻑していくことを願い保護者と共に歩む」とあります。保育者と保護者が互いにファーストネームで呼び合うことは、この想いの一つの表れですが、保護者だから、保育者だから、という分類ではなく、子どもの近くにいる大人として、子どもたちの成⻑を願い、共に考えながら互いにパートナーとして協働していくことを願っています。

そのためには、保護者と保育者が互いに知り合ったり、話したり、価値観を交換する機会がより多くあることが望ましいのですが、2020年春からの丸2年、コロナ対策により物理的な対面コミュニケーションの機会は激減し、保護者と保育者と子どもたちが同じ空間で一緒に過ごす光景は、希少価値とさえ感じられるものになってきていました。
2022年はその光景を再び少しずつ日常に戻していくため
の動きが、保育者からも保護者の方々からも、両輪で起きてきた年だったと感じます。保護者主導では、10月からはじまった園庭開放や、保護者企画「卒園生もウェルカム!森あそびin八森山」などの遊び場づくり。保育者主導では、9月の畑の開墾や、11月の感謝祭や芋煮会、そして12月の大掃除など。そして忘れてならないのが、これらの場を実現するために様々にご協力いただいている地域の方々の存在もあります。

子どもたちと「この土地、貸してください」という看板を立ててはじまった畑プロジェクト。
園近く
に地域の方から土地をお借りでき、水はけがよくなるように水を逃す道を保護者+保育者+子どもたち皆で堀り、由良の牧場から運んでくださった馬糞(堆肥)を皆の人力で混ぜ込み、ヤマガタデザインさんの土を足して、再び皆で畝を作り、種や苗を植え、そうやって実った野菜を収穫して感謝祭で皆でいただく。沼のようだった土壌が肥沃な畑へと皆様の力によって耕され、そこからの見事な実りを(昨年皆で仕込んだ手前味噌をつけて)美味しく皆で味わうまで。
この
プロセスをhomeとyamanokoの両園の家庭と共有しながら、地域の応援を受けて在園児も卒園児も保護者も保育者も様々な形で関われたことは、畑のみならずコミュニティ自体が耕されているように感じました。

畑プロジェクト

やまのこ感謝祭

里芋堀り・芋煮会

 

芋煮会では、やまのこに野菜を卸してくださる庄内風土農園さんの畑で子どもたちが掘ってきた里芋を、調理チームのこだわりの出汁で煮込み、最後は焚き火で温められて振る舞われました。夕暮れから陽が落ちるまでの園庭で、焚き火の煙と芋煮の湯気が漂う中、複数の親子が美味しいねと汁をすする光景が目に焼き付いています。

料理研究家の土井善晴氏の言葉に「力づくの料理はいけません。水だって火が強すぎたら傷つきます。怒って料理したら味が傷ついてくる」とありますが、あの感謝祭での野菜や味噌、そして芋煮の美味しさには、そこに至るまでのプロセス一つ一つにエピソードがあり、そこに関わったコミュニティの多くの人たちの想いと存在があり、それがいかに力づくでも強すぎでもなく、繋がりや願いを形にした優しく丁寧なものであったかが集約されていると感じます。

園庭開放は、保護者有志のつながり隊メンバーがオンラインでコミュニケーションを重ね、月2回(第2、第4土曜)に園庭が解放されるようになりました。「公園代わりに休日に行く場所の選択肢が増えた」とか、「雨で誰もいないのは承知で、少し雨が止んだ隙に家で飼っている生き物の餌を取りに行くために遊びに行った」という声が届き、園が開所していなくても、この場を家庭都合で使ってもらえること、週末の一コマにやまのこが仲間入りすることをとても嬉しく感じています。家庭の数だけそれぞれのやまのことの関わり方が生まれる機会であり、そしてそれは、やまのこという場所の可能性が引き出され広がる機会でもあると思われます。

最後に、やまのこはこの3年間卒園児を送り出し、現在21人の卒園児がいますが、まさにこれからは学童期の子どもたちとの繋がりについても注目していくフェーズだと感じています。保護者企画の森遊びは、在園児の0-5歳も、卒園児や保育者家族の小学生も遊びに来ており、幅のある異年齢家族が混ざり合う場になっていました。我が子とは異なる年齢の子どもを互いに見合ったり、学童期の子どもの遊び方や様子を目にして、卒園後の不安*やイメージ、関わり方などを交換しあったり、コミュニケーションを通して、子どもへの視点が増えるきっかけになっていたようでした。(*大掃除後の保護者の方とのおしゃべり会でも「毎日好きなことをさせてもらって嬉しい。でも小学校にいった時のことが心配」という声が聞かれました。社会の様々な制約の中においても、隣の誰かの自由を侵すことなく、自身の精神的自由を獲得していける力を子どもたちが持てるよう、やまのこでは幼少期に自分の好きなことを自己選択し、たっぷりと探求し、遊びを生み出したり深めたりする力を獲得できるといいなと考えています)


以上のような、保育者も保護者も子どもたちも、一人一人が暮らしの当事者として共に過ごす光景に立ち会うたび、グランマ・モーゼスという画家の絵を思い出します。空と大地と風と季節を感じる空間に、暮らしの営みや手仕事があって、子どもから大人まで、それぞれが生活を営み遊ぶ風景。
『脱成⻑』(セルジュ・ラトゥーシュ著、中野佳裕訳「脱成⻑」、白水社、2020) という本の一節には「本当の豊かさは、何よりもまず、よく機能する社会関係の組織の中から生まれる。それは友達がいたり、興味を持てることをしたり、綺麗な空気を吸ったり、安全で風味ある食べ物を食べたりすることでありうる」とあります。
2022年、関わる大勢の方々の力でこのような光景
がいくつも生まれたこと、このような光景の中で皆さんと暮らしを作っていけることや、5歳のやまのこの生命を生かしてくださっていることに、心から感謝いたします。

アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス《家族のピクニック》1951、個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)

 

 

 

 

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