2023.06.01
いってらっしゃい
Text : Naoko Masu
春を知らせる温かい日差しと、見上げると「晴れてよかったー!」と思い大きく息が吸いたくなるような青空。どこかひんやりする風が通り過ぎる3月31日。やまのこ保育園で新たな門出を迎える子どもたち9名の“いってらっしゃいパーティー(卒園式)”が行われました。
卒園児の保護者、在園の子どもたち、やまのこスタッフ、小さい頃にお世話になったスタッフ、カメラマンとして来てくださった社員の方も含め、卒園する子どもたちの門出をお祝いしました。緊張した表情のカラカラ(卒園児)さん。卒園を迎えた我が子を見守るお家の方の温かい眼差しと時折溢れる涙。在園の子どもたちの声がBGMのように流れる中、いってらっしゃい会は笑顔と笑い声、温かい空気に包まれながら進んでいきました。
森山直太朗の“さくら”の曲が優しく流れる中、少し恥ずかしそう、少し安堵したような表情で退場したカラカラさん。無事に卒園の儀を終えた控え室で「これでちりぢりばらばらかー。」と言い、仲間との別れを実感したかのように涙を流したDくん。それを見てきっとそれまで抑えていた、張り詰めていた感情を表出するかのように、涙を、泣き声を出す子どもたち。
そのカラカラさんの流した涙が、“いってらっしゃいパーティー”がみんなの思い溢れる時間だったこと、やまのこでの営みが子どもたちの心に宿っていることを感じました。
卒園の言葉が出たのは9月のスタッフ合宿の時。今年はどう卒園を迎えたい?どんな卒園の形にしたい?という話が始まりましたが、“やまのこの卒園式の形は毎年違うのかな・・・?”とその時はイメージができませんでした。というのも、今まで私は前の職場でも卒園式という場に毎年携わってきましたが、式の形や流れは毎年同様で、園全体で準備などは進めていきますが、主に年長担任が進めていくという形が通常だったからです。このとき議題になっていたのは、やまのこが2021年度よりhome/yamanokoの2園の年齢構成を徐々に見直し、2022年度よりyamanokoのクラスの枠組みを完全になくして2〜6歳までが混ざり合う異年齢保育が本格的に始まったことにより、これまでは毎年あけび組の担当保育者が卒園式を進めていたが、クラス担当の枠組みが無くなった今回はどうする?ということで、スタッフ間の対話が始まっていました。
『2園で一つということを体現するためにも、やまのこhomeのスタッフも小さい頃に関わった子どもたちの卒園という節目に関わりたい、子どもたちの姿をみたい、見守りたい。じゃあ、みんなが参加できる土曜日開催にする?どういうふうに関わりたい?日程は保護者に確認する必要があるね。卒園児の保護者の方と話がしたい。いってらっしゃい!と見送りたい。』などなど。スタッフの子どもたちへの思いは尽きない。その場では具体的には決まりませんでしたが、『やまのこ・home、二つの園で子どもたちを送り出そう』という思いの方向性が決まりました。
本格的に始動し始めたのは1月上旬。キッチンスタッフ、homeのスタッフも含め“卒園プロジェクト始動”。どんな卒園の形にしようか、とミーティングを重ねていく中で、“カラカラさんとその保護者にもhomeに遊びに来て欲しい。homeの小さい人たちと関わることでカラカラさんにも小さい人たちにも豊かな時間が流れ、何か心にのこるものがあればいいな”というスタッフの声がありました。
“やまのこへ移行すると、なかなかhomeに遊びに来ることもなく、homeの保育者とも会うことがない。卒園前に懐かしいhomeという場所で、小さい頃の子どもたちの写真を見ながら、美味しいご飯を食べ、普段ゆっくり会話ができない子ども・保護者・保育者とコミュニケーションをもてる時間があったらいいな”というスタッフの声から、『homeいってらっしゃいパーティー』の企画が動き出しました。
homeの室内にhome時代の0〜2歳の頃の子どもたちの写真が展示され、「こんなこともしたな〜」「あ、そうそう!これこれ!」と小さい頃を懐かしんでもらえる温かい空間に。やまのこのご飯も食べてもらおうか。たくさんは提供できないけど、これくらいなら提供できて美味しく食べてもらえるかも。キッチンスタッフも保育スタッフも初めての試みだが、形にしようと対話する日々。
実際、homeいってらっしゃい会が3月26日に行われ、カラカラさんとその保護者の方、そして保育者が、限られた時間の中でそれぞれ久しぶりの再会を懐かしむと共に、アットホームな空間での美味しいご飯、とても心温まる時間を過ごせたことの共有をいただきました。
“卒園プロジェクト”では他に、卒園アルバム・卒園ムービー・カラカララジオ(保育者4名からの卒園児に向けたラジオムービー収録)の作成・当日の装飾や式の内容検討・それに関わる外部とのコミュニケーション等々。一つ一つのタスクについてここには書ききれないので割愛させていただきますが、それぞれのタスクにスタッフ一人一人が卒園児や保護者、やまのこに関わる全ての人たちの顔を想像しながら、試行錯誤しつつも、心を込めて進めてきたと共に、『やまのこ保育園はみんなで作り上げていく』その言葉の意味を体現できたプロジェクトでした。
やまのこにjoinして丸1年。よく耳にする言葉が「豊かだな〜」という言葉。
豊かさへの感度は人それぞれだと思いますが、やまのこにjoinして個人的に“豊かさ”への感度が日々広がっているように感じます。コロナ禍の期間中は先が見えない状況の中、様々な制限、我慢せざるおえない状況が長く続き、どこか閉鎖的な、窮屈な思いを感じる生活が続いていました。今までとは違う世界を見たくて、何かを変えたくて、新しい希望を求めるかのようにやまのこに巡り会いました。joinしてからの1年で感じるのは、やまのこコミュニティの豊かさ。そこで出会う人々の豊かさ、そこから枝分かれのように人と人とが繋がっていく様子に、自分自身の鼓動が速くなる感覚やどこか笑顔が溢れてしまうような空気を感じて思わず笑っている時、常にいろんな感覚が自分の中を巡り、やまのこコミュニティでの出会いで感じるこの感覚は、自分にとっての“豊かさ”なのだと思います。
その時その人に出会う子どもたちのそれぞれの表情を見ているだけで、“今この子はこの出会いをどう感じているのか”と自分の中での想像力が掻き立てられたり、時には言葉は通じなくとも表情や仕草、息づかい、体で自分を表現し、その場で通じ合える子どもたちの姿はとても愛らしく微笑ましいです。
“卒園”という大切な出来事に、両園のスタッフが心を寄せて対話できたこと、それを試行錯誤の上で形にできたこと、いってらっしゃいパーティーでの子どもたちの涙、卒園する我が子とやまのこの子どもたちを見守る柔らかい表情、その場の雰囲気を感じとっている在園児の表情、やまのこに関わっている全ての人の思いが詰まった空間・流れる空気・感じる温度が、とても豊かさで溢れている場だと感じました。
「いってきます」とやまのこに小さな手を振って歩き出した子どもたちが、新しい出会いに向き合い、いつの日か「ただいま」と少し大きくなった手を振って顔を見せてくれたらどんなに嬉しいことか。どんな物語を聞かせてくれるのか楽しみに待ちながら、「おかえりー!」という準備をしておこう。「いってらっしゃい!」
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