2023.09.01
やまのこの2023上半期| 願う社会をやまのことして実現すること
Text : Tomoko Nagao
はじめに
2023年度も折り返しを迎えようとしています。
下記のスライドは、2023年3月の「来年度に向けたやまのこ保護者説明会」にて今年度の運営とチャレンジとして保護者の方々と共有した内容です。
「入園のしおり」を「生活のしおり」に再編纂し、変わり続ける“やまのこの今”を言語化して、私たちの願いや、試行錯誤しながら取り組んでいることを保護者の方々と共有していこうと始まった今年度。3年間のコロナ禍において自粛が続いてきた「つながる活動」や「まなざしの共有」に、年間かけて注力していこうという目標設定がありました。
両園での保育参加の再開、誕生日会への保護者参加の再開、そしてコドモンでの保育の様子の日常的な配信などが始まりました。加えて土曜日を活用した保護者参加型の「HATAKE!」「homeびより」「卒園児交流会」なども始まりました。またhomeでは入園前の内定家庭へのアプローチも始まっています。
その結果どんなことが起きているか、ペアレンティングクラス後に感じたことを書いてみます。
家庭とやまのこが
「保育所」として出会うか、
「コミュニティ」として出会うか
6月、これまで両園合同開催だったペアレンティングクラスを初めて園ごとに開催しました。年度の始まりに、我が子が日々暮らす園の保育内容と直結した活動を保護者の皆様と体感し、園と保護者のつながりや、保護者同士の横のつながりを育もうと考えたためです。
yamanokoのペアレンティングクラスは、森の日のフィールド「ケヤキの森」で開催され「大人のための森の日」となりました(詳細は未帆さんの記事をご覧ください)。homeのペアレンティングクラスは、homeのガーデンとお部屋で「ガーデンから食卓へ」を経験する内容でした(詳細は香苗さんの記事をお楽しみください)。
2つのペアレンティングクラスを経て感じたことは、私たちは保護者の方々に対して、やまのこという場を「子どもを預ける場」としてではなく、「保護者ご自身も喜びや学びを分かち合える場」として感じていただくことを願っているということ。言い換えれば、「子どものための“保育所”」としてではなく、「(子どもはもちろんながら)保護者ご自身もが生きる“コミュニティ”」として出会える機会を作ろうとしている、という感覚でした。
「保育所」として出会う場合、どうしても「仕事のために子どもを預ける施設」という印象が強くなる気がします。就労時間がこうだから子どもの登降園はこう、という具合に「子どもの預かり機能」が最重要マターで、やまのこで暮らし、学び、楽しむ主体もあくまで子どもであるという「子どものための場」という意識が強くなります。
一方、ペアレンティングクラスでの大人たちの姿は、子どもを通して出会ったこの場で、自分たちも味わい楽しみ、体感やまなざしを共有し、経験を分かち合い、場や人とつながる姿。大人自身の体感・体験・気持ちも大切にしていく光景でした。この光景を目にし、私たちが今年度志していることはこれだ!と気づかされました。
子どもの入園/在園だけが、この場と関わる理由ではなく、保護者ご自身がこの場と関わることで、それぞれの感性を通して意味や喜び、嬉しさなどを見出し、そういった生きた感覚を携えて、この場と関わることを願っているのだと。
例えば、homeのペアレンティングクラスで、内定家庭の保護者の方が(今回初めて入園前の内定家庭も対象としました!)、我が子の入園はずっと先だが、入園とは関係ない時期に、homeのガーデンの植栽と出会い、そこから食卓につながるプロセスを体感し、美味しいものを食べ、我が子ではない0歳から2歳までの様々な子どもの成長段階を目にし、やまのこで暮らす大人たちと出会い、こんな豊かな場所なんですね〜、とご自身が喜んでいらっしゃる姿は、この場を「コミュニティ」として感じてくださっているように見受けられました。
これまでは保護者の方とのファーストコンタクトの機会は入園直前の事前面談であり、そこではどうしても保育利用時間や食事/睡眠など、具体的な入園にかかる子どもの発達状況のヒアリングが主で、保護者ご自身がこの場を「体感する」「感じる」「味わう」ことの実現は難しく、結果、「子どものための保育所」として出会うことが常だったように思われます。しかし今回のように、入園時期とは離れたタイミングから、コミュニティの一員として関わる機会や出会う機会を開いていくことで、結果、この場が「(子どもはもちろんながら)保護者ご自身もが生きる“コミュニティ”」となっていく大きな可能性を感じました。
また、yamanokoのペアレンティングクラスの担当スタッフから終了後の開口一番に「朝、駐車場に集合してバスに乗り込む前の保護者の方々が集まる円形の大きさは結構大きかったんですが、昼に森から帰ってきてバスから降りて解散する前に集まった保護者の円形の大きさは、随分ぎゅっと小さな円になっていて、それだけ距離感が縮まったんだなと!」という報告を聞いた時、あくまで「子どもが通う保育園の保護者向け行事」に参加する気持ちで集合した朝と、実際に大人が自身の体感をフルに動かして人や場と出会い味わった後の解散時の「コミュニティ感」の醸成を強く感じました。
「保育所」から「コミュニティ」へ
やまのこが、子どもがその子自身として伸びやかに暮らし学ぶことのできる保育所であることはもちろんですが、私たちはそこに関わる人たち(今は主に保育者や保護者)もが、子どもたち同様に、その人自身として伸びやかに暮らし学ぶことのできる場でもありたい、と願っています。
というのも、子どもの学びや暮らしの場が、その周囲の存在(大人たちや地域、社会)と切り離された状態で、そこだけが良い状態であることはありえないと考えるからです。子どもであれ、大人であれ、関わる誰もが自身の感覚や気持ちを大切にし(大切にされ)、その感覚を他の人とシェアしたり、自分で感覚に基づいて選択したりすることができるコミュニティであることが、結果的に子どもの場をも豊かに耕していくことになると考えます。
今年度は卒園児交流会を開催するなど、関わる大人だけでなく、卒園児たちにも具体的なアプローチを始めておりますし、土曜日を活用した「HATAKE!」や「homeびより」において、共に汗をながし、手を動かし、大人とこどもが共に自身の体感を通して私たちの日常を味わう場を設けていることは、「全ての人がよりその人らしく生きるコミュニティ」という、私たちが願う社会を、やまのことして実現しようとする取組みのように思われます。
ちょうど先日、国から「保育所等における地域づくりに資する取組の実施について」という通知が出ました。
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○ 地域において保育所等は、現に利用しているこどもや保護者だけでなく、かつて保育所等を利用していたこどもや地域住民、保育所等において勤務していた職員その他保育所等と連携して活動する地域の主体とも関わり合う存在である
○地域づくりに資する取組は保育所等の自発的意思と創意工夫に基づくものであり、子ども食堂に限ったものではなく、例えば休日に保育所等において子育て世帯への相談会を実施することなどが挙げられる
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これまで保育所は「保育以外のことは原則としてNG」とか「(保育以外の)目的外使用の禁止」という考え方が根強くありました。が、時代は明らかに「コミュニティ」への変容を要請しています。
環境や自然と共生する循環型の持続可能な社会、(孤育てにならない)つながりあう社会、人のウェルビーイングを実現する社会。やまのこが、日々子どもたちの生命と呼応し響きあいながら作られている場であるからこそ、その感覚を、子どもだけでなく関わる多くの存在とも共有し、私たちが願う社会を実現する一つのコミュニティに育っていくことを心から願い、私たちは今日もうごめいています。
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