2023.09.01
食べることは生きること
Text : Kanae Teshigahara
6月3日に開催したやまのこhomeのペアレンティングクラス。
この日は在園中の親子とこれから入園する親子の皆さんとで、homeのお庭に野菜やハーブの苗を植え、旬のイチゴやラディッシュ、レモンバームを収穫して”野菜ちらし寿司”を作りました。
思い起こせば私がhomeに入って最初に驚いたのは、お庭でたわわに実ったジューンベリーを子ども達が赤くなった実だけ器用に選んで食べる姿でした。homeの入口にあるスグリの植物の前に行くと「あるかなぁ〜」とNくんやSくんが駆け寄って行き、実を収穫して食べる姿にも驚きました。子ども達は自然と関わりながら、「ジューンベリーは実が赤くなると美味しい」「スグリはここに植っていて実は食べられる」というようなことを誰かが食べている姿を見たり、緑の実を食べて酸っぱい思いをしたりしながら、習得していっているのだと感じました。この子達は”旬”を食べることや、”熟す”とはなにかを知っている。旬を食べることを通じて季節の移ろいを感じている。このことを実感できたことは、私にとってとても嬉しい心のギフトでした。
旬の物を食べれば、それぞれの地域にある芽吹き、育ち、結実、死、腐敗、休眠、再生のサイクルと繋がることができるのではないでしょうか。そして私は、その季節のサイクルを理解すれば季節の巡りを待つ力が身につき、ものごとの本質を感じられたり、「今ここ」を生きながら自然と共存していく力が育まれていくように考えています。
子ども達は何度も味見をして思考錯誤を繰り返す中で初めて完熟を理解し、そうやって味のグラデーションを感じているのかもしれません。homeの子ども達が季節の暮らしの中で、食べ物の根っこに触れながら生きる力を育む風景は、私にとってとても豊かなものでした。
そんな風景に感動しながら、今回のペアレンティングクラスでは、苗植えから収穫、みんなで料理を作って食べることを通して、自然と食が繋がるやまのこの日常をぜひ保護者の方々にも体感してもらいたいと企画しました。
いよいよペアレンティングクラス当日。
ナスやキュウリ、トマト、ズッキーニ、ハーブの苗を植えるチーム。
イチゴやラディッシュ、レモンバーベナを収穫するチーム。
雑草を抜いてマルチにするなど人の手を加えながらガーデンを豊かにするチーム。
それぞれに手分けをしてこれから夏に向けて育んでいくお庭や、お昼に作る野菜ちらし寿司を分かち合うための準備をしました。
※マルチとは野菜の周りをカバーして雑草を避けたり地面の乾燥を防ぐなどする野菜の成長を助ける為の資材です。
Nさんに抱かれて、いちごの葉っぱの海を足で感じるYちゃん。
みんなで収穫してきたレモンバームを触ったり、じーっと眺めるTちゃん。
イチゴを収穫してその場で食べ、酸っぱかったのか口から出すMちゃん。
お庭では子ども達がそれぞれに自然を感じる姿がありました。
最後は収穫したイチゴやハーブ達がぞくぞくとテーブルに並び、美味しい香りが部屋の中を包み込んで…五感が嬉しくなるような瞬間がやってきました。
やまのこが大切にしている食の在り方や旬の食材を主役にする調味料についてレクチャーしてくれた尋子さん。
ざっくばらんにお話しながら楽しそうにハーブをちぎったり、ドレッシングを作ったり、手を動かすお父さんやお母さん方。
子ども達はイチゴやサツマイモをパクパクと味見したりしながら、野菜ちらし寿司が出来上がっていきます。不思議と皆さんの肩の力が抜けて笑みが溢れていくような自然体の表情を見ることができました。
「採って数秒のものをすぐに食べられるって幸せだね」と朋子さん。
「小さなお庭でもこんなに多様な季節の恵みを感じられるんだ」と驚くKさん。
そんな会話が飛び交いながら、目にも鮮やかな一皿が出来上がっていきます。
ペアレンティングクラスで完成した野菜ちらし寿司は季節の恵みをたくさん詰め込んだとびきりの一皿でした。
その一皿を美味しいねとみんなで分かち合う瞬間は、今ここに在る季節の豊かさだけでなく、ずっと前に誰かが種まきをした時間、育てた時間、収穫した時間も重なっています。
そして、みんなで食卓を囲むという目的地に向かっていく道筋には、料理をするという中にも野菜を洗ったり、ちぎったり、盛り付けたり、いろんな役割が生まれていきます。テーブルを綺麗に整えたり、食器を並べたり、お花を飾ったり…それも食卓をつくるのにとても大切な愛情のかけ方です。
この日は大人も子どもも参加された全ての方々が、自分のペースでできることを見つけながら、自分のためにみんなのために愛情を重ねて食卓をつくった1日でした。
そうやってできた食卓を囲む時間は美しく尊くかけがえのない時間でした。
繰り返しますが、やまのこhomeの子どもたちは、お庭で育つ植物を触ったり、味見をしたり、様々に関わりながら季節の移ろいとそのものの旬を感じています。そして誰かと食べること、分かち合う喜びを知っています。
—私たちは互いを認め合い、敬わなければなりませんが、その行いを学ぶ最良の場所が家族が集う食卓なのです。
『食育菜園:エディブル・スクールヤード:マルティン・ルーサー・キングJr中学校の挑戦』(センター・フォー・エコリテラシー著 ペブル・スタジオ訳/家の光協会より2006年刊行)
これは私が尊敬するカリフォルニアにあるオーガニックレストラン”シェパニース”のオーナーであるアリス・ウォータースの言葉です。
ペアレンティングクラスでは、皆さんと食卓を作り旬のものを分かち合う喜びを通して、よりこのメッセージの大切さを実感することができました。これからも子ども達と、お庭を育み、旬のものを食べ分かち合い、”生きること”を共に楽しんでいきます。
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