やまのこ保育園

惑星のようす

"さんがつしがつ| 応答的であるということ"

2023.06.01
さんがつしがつ| 応答的であるということ

Text : Tomoko Nagao

3月-4月は、私たちが暮らす庄内が冬から春になる時期であり、また卒園児の旅立ちの時期でもあり、やまのこにとっては毎年大変化の時です。

 

土に応答的であるということ

クァㇰ、クァㇰ、クァㇰ。三月になると夕暮れの空にコハクチョウの声を聞く。長い冬が終わりを告げる。足下に流れる水の音。土があらわになる。泥の匂いが滲む。(中略)梅がほころび、ソメイヨシノが蕾を膨らませる。四月に入ると渓流釣りがはじまる。熊撃ちがはじまる。(中略)そのころ市街地ではソメイヨシノが満開を迎える。街から月山と鳥海山がくっきりと浮かび上がる。この時期の澄んだ空気がわかる。海沿いの集落では、半ば過ぎに早くも散り始める。田を耕すトラクターの姿が散見される。そこから高度をあげた山間部で、山菜が採れはじめる。
– 成瀬正憲「自然について考えていったら山伏や採集者になってしまった話」『私たちのなかの自然』(左右社, 2022.)

 

この文章は以前やまのこに来てくださったこともある山伏の成瀬さんが書かれた3月・4月です。

冬から春へ移ろうこの時期は、日常の光景360°から季節の変化を感じ続ける日々。
私は東京から庄内に移住して6年になりますが、東京時代、春といえば桜・たんぽぽ・花粉くらいだったのが、庄内に来てからは年々解像度があがり、春といえば、白鳥の旅立ち、雪解け、バンケ、ツクシ、ヨモギ、コゴミ、タラの芽…などなど。
これも季節の便りか!と自然界から受け取る彩りが増え続けています。
自然と共にある山伏 成瀬さんのレンズで捉えたこの文章に触れた
とき、解像度があがればあがるほど、さらに自然界から受け取るものが増していくのだろうということを感じました。

なぜ年々解像度が上がっているのか。それはやまのこの暮らしが大きく関係しています。
やまのこの暮らしは土(自然界)に応答的です。
土に雪があるか/ないかで遊びも活動も食べるものも変わります。

子どもたちの遊びで言うと、森の日の遊びはそり滑りから山菜やカナヘビ探しになり、ある日は森でバンケの天ぷらを味わい、ある日は森で摘んできたヨモギを園で干してヨモギケーキを焼く。これらは大人が企てていると言うよりも子どもたちの存在が大きくあり、子どもは「春といえば〇〇」というある種の固定観念のフィルターをもって世界に接するのではなく、日常の光景全てに新鮮な目で出会い、「!」と発見し、反応し、戯れます。バンケ!カナヘビ! そこに大人も一緒に「!」と反応していると言う具合です。

また、4月から再開したHATAKEの活動も、私たちの土への感度を高めています。
堆肥混ぜ込み〜畝作り、種まきを行いましたが、畑や種ポットを覗いて「芽が出てきた!」と気づく時、私たちは同時に自然界の時間の流れ=土の変化に要する時間を感じ取り、土との応答性を経験することとなります。

もう一つ、私たちが食すやまのこごはんの視点で言えば、やまのこごはんの献立は土の変化に応じるプロセスで作られています。
調理スタッフは毎週農家さんに「
今週のお野菜の種類を教えて頂けますか?」とメールを送り、その時に一番採れる旬の野菜を聞いてから献立を決定。予め献立を決めて必要な食材を多くの食材が揃うスーパーから取り寄せるのではなく、土に応答的な無農薬野菜を扱う農家さんを通して、土の変化にリアクションする形で献立が立てられており、だからこそ、それを食す私たちの身体も、季節に呼応したものになっていきます。

やまのこの暮らしは、これらに駆動されながら、土に応答的なものとなり、
そこに関わる大人も子どもも、自然界への解像度が高まっていっているように思われます。

 

 

人に応答的であるということ

3月-4月は人の入替り時期でもあり、3月末にはやまのこ4回目の卒園児9名と職員3名が旅立ちました。一人ひとりの存在と力で作られているやまのこコミュニティは、構成員が一人変わるだけでコミュニティも変容します。
言い換えれば、やまのこの”今”は、都度そこにいる構成員で作られ続けている。

2度と同じことがない、と言うと大げさですが、やまのこの活動が、毎年同じ形で行われるのではなく、その年ごとに違う形であることは、特徴の1つだと思います。それはやまのこの保育者が、日々子どもたち一人ひとりの存在と力に目を向け、この子ならこういう活動がいいかもしれない、この子たちはこのようなチャレンジを求めているだろう、と、子どもたちの状態を見取り、それに応答する形で保育を作っているからです。

卒園児9名(呼称: カラカラチーム)が3月の旅立ちに向かって過ごした日々と、その中で彼らがチャレンジしたことは、この特徴をよく感じさせるものでした。
その中の一つが「カラカラチームでSORAIに行こうプロジェクト」。

子どもたちの「KIDS DOME SORAI(保育園隣にある児童遊戯施設)にいきたい!!」という気持ちから、実際にある日SORAIに行ってみたところ、入場料が必要であることを知った子どもたち。お金どうする?⇨SORAI入場料を自分達で集めよう!と、子どもたち自ら資金調達することとなりました。

  • まず、Spiber本社にココア屋さんを出店し、趣旨を理解した社員がココアを購入。
  • その後、やまのこエントランスにて、畑の冬野菜と、ココア屋さん、おやつ屋さんを開店。お迎えの保護者が美味しく購入。
  • それでも目標額に足りず、カラカラ劇を自分たちで内容を考え、練習し、その上演により、投げ銭を集め、見事資金調達達成!!念願のKIDS DOME SORAIにいくことが決まりました。

 

カラカラ劇場の終演後、投げ銭を呼びかけます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本社の社員、保護者、SORAIの方。多くの人を巻き込んだ様々な子どもたちと保育者のアクション/リアクションの往還と試行錯誤を感じていましたが、面白かったのはここで終わらないこと。調達総額から入場料9名分を差し引いても3813円残るという新たな状況が生じます。
ここで保育者はこの残額で何ができるか?と子どもたちと話し合い、保護者に投げかけます。

SORAIに行くために必要な13500円を差し引いても3813円が残ります。今日はこの資金で何ができるかな〜?残りやまのこで過ごす日をカウントダウンし、26日しかないということに驚愕しながらも、みんなでやったら楽しそうだなということを挙げながら話しました。そこで出たのは、電車の旅・やまのこレストラン・劇おつかれさまパーティー・加茂水族館&ピクニック・金峰山登山など、いろんなものが出ました。
すでに3月のお休みが決まっている子どもたちも数名いますので、実施できる日程を調整しながら、できる限り子どもたちのやりたいことを実現できたらと思っています(全部はできるとお約束でき兼ねますので、ご承知おきください。でも、尽力します!)。詳細が決まりましたらまたご連絡いたしますので、よろしくお願いします!
– 保護者とのコミュニケーションSlackの2/21の保育者千尋さん投稿より

結果、2/27 SORAIへ!、3/10 加茂水族館へ、3/17 電車の旅、3/28 やまのこレストランと続きました。予め定めたSORAIに行くという目標達成だけがゴールではなく、そこから生じた新たな状況に応答し、自分たちの3月の活動を決めて、卒園までの日々を過ごし切ったこと。このチャレンジや経験のプロセスを、保育園内に収めることなく、Spiber社員や保護者、そしてSORAIや水族館など社会と接続した状況の中で実現していったこと。

私たちの保育は、このような人(主に子どもたち)に応答的な態度の中で、今日も日々作られているのだと感じています。

 

 

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