やまのこ保育園

惑星のようす

"循環するわたしたち"

2021.07.01
循環するわたしたち

Text : Tomoko Nagao

昨年度制作のやまのこの1年間を追ったドキュメンタリー映像の作品タイトルは「ちいさな惑星〜循環するわたしたち〜」。作品紹介の一節には以下のようにあります。

「土に還るもの、なーんだ?」「野菜!」「草!」「虫!」「人間は?」
地球に生きているという感受性を育むことを保育目標に掲げる、やまのこ保育園の日常には、こんな子どもたちとの対話があります。今日食べた野菜の皮をミミズが食べ、堆肥になる。火をおこし、ごはんを炊く。煙が立ちのぼり、髪の先まで炎の薫り。そんな土の、虫の、草の、火のいのちと共にある暮らしが、子どもたちと共に重ねられていく。

「土作り〜畑仕事〜調理」といった食を通した循環や、「野外活動で出会う生き物の飼育〜死〜埋葬」などの生命の循環は、子どもの日常でもありイメージしやすいかと思います。これらの他に、やまのこにどのような「循環」が生まれているのかを、年間計画とペアレンティングクラスの2つレポートを通して考えてみます。

 


地球暦での年間計画

地球暦は春分から始まる円の一周で一年を示す円形カレンダーで、太陽や月、地球の1年間の動きが表現された暦です。やまのこの暮らしは時計が示す時間ではなく、庄内の四季の移り変わりや、太陽や月など大きな自然が引き起こす時間の流れと呼応しながら営まれるものでありたいとの想いから、このカレンダーを使って年間計画を考えています。形が円形(環)なので、それだけで循環が連想されますが、ここには、畑と食や、野外活動で出会う自然の循環のみならず、季節に応じて行う仕事や文化的営み(日除け設置や大掃除、門松作りなどの家事や、節分、七夕、お月見などの季節行事)の環もあります。

また、今年度初めて「生命/身体」の環も加わりました。
これまで身体測定や避難訓練などの毎月の営みは、保育所運営において実施して当然のものとして行なってきました。しかし、今年の年間計画を立てる中で、「身体測定と避難訓練に共通するもの、なーんだ?」と考えてみると、これまで別々のものと捉えてきた身体測定と避難訓練(と、そして誕生会)が、生命/身体という共通項で繋がり、環を構成することが見えたのです。そのとき「わ!繋がった!」と私は小さくも深い感動を覚えました。
誕生会は子どもたちの生まれた日を思い出し生命の誕生を祝福するもので、身体測定はその生命の変化に触れる日であり、避難訓練は生命を守る術を知ると共に、実施日を震災や戦争等の日に重ねることで、これまで失われてきた生命や自身に繋がる先祖の生命の存在などに想いを馳せる機会となります。
別々だったものが、このようにあるつながりを持った状態として認識できると、急に新たなサイクルが回り始めたかのように、生命/身体という点での循環を日々の営みの中で強く感じられるようになり、ここにも循環があったか!と、子どもたちと共に、より循環する暮らしの光景をつくっていくことが出来るようになると感じています。

 


ペアレンティングクラス(2021/7/10)レポート

やまのこの保育者と保護者がファーストネームで呼び合うこと。それは、サービス提供者と消費者という関係性ではなく、子どもを共に育むパートナーとしてありたいという願いの現れです。とはいえ、どんなふうにパートナーシップを育んでいくのか。
ペアレンティングクラスは、保護者と保育者が子どもを育む仲間として共にパートナーシップを築いていくための大切な機会のひとつで、年2回開催されています。

これまではやまのこの運営スタッフがデザインしてきましたが、今回はやまのこの特徴の1つを活かして、職員且つ保護者の4名が企画担当となり、そこに、企画協力に手をあげてくださった3名の保護者(Fさん、Yaさん、Yoさん)が加わり、内容を考えました。
事前の打合せでは、改めてペアレンティングクラスの目的を話し合い、下記のように言語化しました。

〈ペアレンティングクラスの目的〉

子どもに関わるわたしたち大人(保護者と保育者)が双方向のコミュニケーションによって、子どもについての視野が広がるような機会となること。

そして、子どもを通して出会う様々な繋がりを育みながら、視野がひろがったり、助けられたり、豊かになれたりすることが多発するコミュニティに、ここを耕していくこと。

この事前打合せを通して、保護者の方々には、園の様子や保育者の考えや想いをもっと知りたい、子どもや育児に関する視点を広げたい、というニーズがあることがわかりました。また職員兼保護者には、やまのこでの様々なコミュニケーションを通して子どもについての視野が広がる経験や、このコミュニティに育てられ支えられている感覚があることがわかり、それを職員である自分たちだけではなく、保護者の皆さんとも共有したいと考えていることがわかりました。
私自身、やまのこの運営者でもあり、子育て真っ只中の保護者でもあり、ここに居ることで日々子どもや子育てについて学ぶことや、助けられていることが多いと感じる当事者の一人です。子どもだけでなく、大人たちにとっても、ここに居ることが心強く、喜ばしく、豊かだと感じられるようなコミュニティにここを耕していこう。事前打合せで保護者としても職員としてもその願いを強く持ちました。

当日は、子どもについての視野が広がる機会となるよう、保育者が子どもをどのような視点でみているかを保護者と共有する「子どもを見る視点」というミニワークを行いました。園で2020年度から取り組んでいる、子どもたちを見る5つの視点(ニュージーランドの幼児教育で採用されているラーニングストーリーという記録方法を行う上で示されている、関心、熱中、挑戦、表現、責任の5つ)とそのベースにある考え方を保護者の方々に紹介し、この5つの視点で、それぞれ我が子について書き出し共有するワークを行いました。
わたしたち保育者は、子どもが何かに興味を示したときや、熱中しているとき、困難に立ち向かっているとき(挑戦)、考えや気持ちを表現しているとき、自分以外の立場に立って役割を果たそうとしているとき(責任)、その子どもが「世界に参画する方法のバリエーションを学んでいる」と捉え、それらの姿を観察して、学びのストーリーとして記録しています。子どもたちの、様々な世界への参画方法を複数の場面でよく観察することは、子どもの育ちが一場面ではなくつながっているものだと捉えていくことであり、子どもの中で興味/関心がどのように学びにつながって循環しているかを考えることでもあります。また、観察し→記録し→解釈し→関わりをアップデートし→また観察し…という保育者(大人)の行為は、記録から保育実践(暮らし方)へのつながりを目指すものであり、ここでも私たちは、子どもの姿から暮らしを紡いでいくという、循環した状態を目指しているのだと感じます。

その後、保護者間でどのようにこのコミュニティを豊かに耕していけるかと、そのための様々な手段を小グループで考案し「こういうことやるといいね!」を出し合い、最後に園と保護者、そして保護者間をつなぐコミュニケーターの役割を担う「つながり隊」の再編成も行いました。

保育者と保護者、園と家庭、それぞれが互いに連動していく感覚が徐々に徐々に増していくと、子どもだけでなくわたしたち大人も、互いに影響しあい、変容しあい、共に今を幸福に生き、共に暮らしを営んでいく感覚が、少しずつ醸成されていくのではないかと考えています。私は、全てが関わりあって循環していることを目指すこのコミュニティで暮らすことがとても心強く幸せです。やまのこという子どもたちを軸に拡がり循環するコミュニティで、子どもたちの成長を願いながら、自身も変化しながらみなさまと共に日々をつくっていくこと。その喜びを育てていけたらと思っています。

 

 

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