やまのこ保育園

惑星のようす

"からっぽチームのやまのこキャンプ2021「なかまと出会う」"

2021.07.01
からっぽチームのやまのこキャンプ2021「なかまと出会う」

Text : Chihiro Taniguchi

はじめに
今年度の年長児キャンプのキックオフミーティングは5月末頃でした。
まず、子どもたちの特性や特徴、個性などを一気に書き出す作業から始め、最近どんな姿が見える?今後どんなところを伸ばしたい?どんなところを強めていきたい?などの話題へ繋げ、テンポよくキャンプのテーマを決めていけたら、と考えていました。ところが、話を重ねていくうちに彼らの現在の姿が様々な角度から切り取られ、そこへ保育者4人の視点が混ざり合い、どんどんイメージが膨らんでいき…思った以上に話し合いは難航していきました。

彼らの「今」に注目して話を始めた時でした。最終年次になったばかりの彼らに対し、「年長さんだからね〜」「年長さん頼むよ!」など、”ねんちょう”というワードを保育者が積極的に使ってしまってるね、と立ち止まって考え直すタイミングがあったのです。それをきっかけに、保育者は ”ねんちょう” という表現を改めよう、という方向へ向かいました。というのも、最終年次になった彼らとそれ以外の子たちの間で、違和感のある関係性や隔たりが築かれつつあったためです。「ここは年長しか入っちゃだめ〜」「年長だから◯◯やってもいいんだよ!」「年長のくせに泣くなよ」などというやりとりが生まれていたのです。最終年次になってからの彼らの変化に気づいた保育者たちは、何か手を打ちたいと考えていました。これらの姿の背景には昨年度の年長さんたちの印象が強く刻まれており、モデリングするような形で自分たちのアイデンティティを形成している要素があるのかもしれないと感じていました。
彼らにとっての所属感と安心感も大事にしつつ、 ”ねんちょう” という強烈な先入観から抜け出すために、みんなで自分たちのチーム名を考えてもらうことにしました。決まった名前は「からっぽチーム」(*詳細は関連記事「たべものと出会う」で紹介しています)

次に、今回のキャンプのテーマを決めるために、彼らの姿をがっしりと掴み、活動の詳細を決めていくにあたり、キャンプの中で見たい子どもたちの姿を動詞で書き出してみました。そこで出てきたのは…
収穫する・食べる・調理する・歌う・踊る・相談する・語る・創る・探検する・空間をつくる・疲れるなどなど30程度の動詞でした。
しかし、出したはいいものの、これほどのものをキャンプだけで実現するのは難しいよね、これらは年間を通してハイライトをあてていくべきだよね、という話になりました。
最終的に、あがってきた動詞の傾向を4項目に分類し、ざっくりとした年間計画を立てました。その4項目とは、①調理する/食べる、②手作業する/つくる、③表現する、④人を知るの4つ。※下図参照

 

キャンプは最終年度において重要なファクターですが、キャンプだけを考えるのではなく、年間を通して、彼らの得意なこと・不得手なことをあらゆる角度から見取り、彼ららしさに寄り添いながら進めていくことが年間の計画の第一歩となりました。
そして、そんなからっぽチームのキャンプのテーマは「たべものと出会う・なかまと出会う」に決まりました(「たべものと出会う」についての詳細はこちらの記事で触れています)


なかまと出会う
このテーマにしたのは、社会性/コミュニケーションスキルが高いからっぽチームの人たちの中で起こっていた、ある現象がきっかけでした。気の合う人たちで集まり、スピード感をもって物事を展開することが得意な人たちが多い傾向にあるのですが、それゆえにいつもの仲間以外の人たちとの関わりが希薄になっている傾向があったり、仲間内で共通のモノを所持することでグループ意識を強めたりしている現象がありました。つまり、興味の範囲が主にグループの内側だけに向けられているような感覚があったのです。
キャンプでは、生活における全てを共にします。だからこそ、この貴重な時間を通して、11人のメンバーがお互いに様々な角度から相手を知り、知らなかった新しい顔に出会い合える時間になるといいなと期待して、様々なアクティビティの構想を練りました。Nice to meet you again!! 作戦です。
フィールドの選択には、山?川?海?体力的にどう?などいくつもの問いを重ねました。最終的に、もう一つのテーマ「たべものと出会う」との兼ね合いも考慮し、フィールドは由良の海に決定しました。

また、内容としては、なかまと出会う瞬間には ”fun” の要素が欠かせないと考えました。楽しい!と思うことをとことんやることで、その楽しさを介して距離がグッと縮まることを期待し、午前中は生き物との出会いの時間/食料調達(釣り)と、思いっきり海で遊ぶ時間を組み込みました。
そして午後には、小さなグループの中で新しい出会いの機会を提供できたら…と計画しました。それぞれの子どもの得意なことや苦手なことが散らばるようにバランスを考えて、からっぽチームを3つのグループに分け、自分たちが活動するフィールド(由良)の歴史や植生、その土地らしさを感じられる内容にし、且つチームでないと達成できない要素を加えて協働する機会になればと考えました。そこで新しい発見があるはず!と目論んでいたのです。

 

当日、子どもたちは海の活動において大人が予想していた以上に挑戦的でした。足がつかない沖まで泳いで行ったり(ライフジャケットを着用しました)、沖まで行った仲間を心配して助けに行こうと試みたり、経験したことのない、見たことのない風景を見てみたい、挑戦的な人たちが半数いました。一方、保守的な人たちも半数いるわけでしたが、ここでのメンバーの別れ方が非常に自然だったのです。自分がやってみたい!という湧き出てくる気持ちに素直に応えているような前者、挑戦してみたけどそこまで無理しないでいいかな、という感じの後者に別れました。日常の中でよく見かける「〇〇ちゃんはどうする?」「〇〇くんがやるなら…」のような属人的な思考は一切生まれていなかったのです。同じフィールドにいても、どんどん挑戦する人もいれば、自分のコンフォートゾーンで楽しむ人もいます。そして、どちらの遊び方をしていても、自分1人ではなく、周りに仲間がいるのです。自分自身と出会いながら、仲間とも改めて出会っていた時間だったように振り返ります。


午後のグループ活動ですが、白山島での冒険をテーマに、隠されている様々なものを探し当て、グループで力を合わせてあるものを救出するという内容でした。普段一緒に過ごすことが少ないメンバーが同じグループになり、そのグループで一つのことを達成する中で、お互いのことを知る機会を作り出そうとしたのです。

保育者たちが熟慮を重ねて作ったプログラムでしたが、3つのグループ活動はそれぞれに全く違った性質となりました。
プログラムのタスクをクリアしていくうちに段々とチームらしく距離を縮めていき、一体感を獲得したチームA。メンバー同士の思いやりによって最終的にはなんとなく協働することを体感できたチームB。それぞれの自由がぶつかったチームC。それぞれのチームがプログラムに取り組む中で、なぜか私の目には、なんとなく熱中しきらないような子どもたちの姿が目立ってうつりました。

夕食を作る時間になると、4つのグループを作りました。飯盒・スープ・カレー・パスタのうち、希望するグループで調理する流れへ。この担当決めのプロセスでも海遊びの時と同じように、「〇〇ちゃんはどうする?」「〇〇くんがやるなら…」という決まり文句が交わされる様子はありませんでした。自分が何をやりたいかをじっくり考え、それぞれが自身のニーズに素直に応え、そこで新たにできた小さなコミュニティにおいて協働していたのです。
その後も、テントを立てたり(GOLDWINさんからお借りしました)、みんなで夜の散歩に出かけたり、キャンプファイヤーを囲んで歌ったり、自分たちだけのキャンプの歌を作ったりしている間に、自然と子どもたち同士のお互いの距離が縮まっていく光景を大人は味わっていました。
その手応えに、大人が仕込んだあれこれよりも、楽しいことや難しいこと、ちょっぴり怖いこと、またその時間をたっぷり共有することが彼らにとって非常に重要で、保育者がねらっていたあれこれへのルートだったことに気づかされました。

 

キャンプが終わり、白山島での午後の活動を振り返ってみると、アクティビティを仕込みすぎてしまったのかもしれないと思います。それぞれのチームで異なる動きになることは当たり前のはずなのに、子どもたちへの願いから、子どもたちが大人のイメージ通りに動くことを期待してしまっていたかもしれないと思ったのです。

冒頭に、子どもたちが昨年の年長児をモデリングしているのかもしれないと述べました。もしかしたら、保育者も知らず知らずのうちに昨年の年長児と今年の年長児を比較してしまっていたのかもしれません。
そして、今年の年長児が充実した時間を過ごすには、大人の支援が必要だと思い込み、アクティビティを仕込みすぎてしまったのかもしれません。しかし、今回のキャンプを通じて、子どもたち自身が、子どもたち自身の力で変化していく姿を、保育者はまざまざと見ることができたように思います。

それぞれが新しいことにチャレンジした2日間、自分たちだけの生活だからこそ、必然的に補い合いが生まれます。社会性の高いチームだからこそ、そんな場面にたくさん出会った2日間でした。これまでの関係性を突き破って新しいコミュニティができた、とまでは言えませんが、グループの内側だけに向けられてた興味の矢印が少しずつ外側にも向いてきた感覚があります。
この11名のからっぽチームのメンバーは、これから3月までの様々なプロジェクトを通して、からっぽチーム内だけにとどまらず、保育者含めやまのこ全体が変わっていくような流れを作っていってくれるかもしれません。

 

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