やまのこ保育園

惑星のようす

"2023カサスキャンプ"

2023.09.01
2023カサスキャンプ

Text : Asako Sugano , Saeko Imai , Yuki Baba , Chihiro Taniguchi , Mina Ito

カサスとは

年齢別にクラス分けをしていないやまの子では毎年、年長さんが自分たちの学年のチーム名を話し合って決めます。今年の年長さん11人のチーム名は「カサス」です。

 

今年のキャンプ

海遊び、川遊び、手作りのお弁当、はんぶんこしたアイス、みんなで入ったお風呂、協力しあったピザパスタ餃子サラダ作り、夜の探検、見上げた打ち上げ花火、ドキドキのテント泊。その一瞬一瞬に子どもたちはたくさん考え、感じ、1泊2日のキャンプを全力で楽しんでいるようでした。そして2日目の朝食後の自由時間で、彼らはキャンプの経験を表現しようとしていました。まだ「思い出」というには早いような、一晩たったら夢だったような、不思議な時間感覚の中で彼らがどのような表現をしていたのか、今年のキャンプの報告にかえていくつかエピソードをご紹介します。

 

石アートチーム

1日目は温海海岸の汽水域が活動場所でした。当日は太陽が照りつける猛暑日ではあったものの、波は穏やか、ちょうど引き潮のタイミングでもあり海川ともに水位もちょうどよく絶好の海川遊び日和でした!めいっぱい海で泳いだあと、川でお気に入りの石や漂流物を拾う「宝探し」への誘いがあり、自分だけのお宝を探している人が何人かいました。

2日目の朝食後、保育者のさえこさんが「みんながひろった石とか貝にこんな風に絵を描いてみない?」とあらかじめ作っておいた試作品を見せると、「かわいい!」「やりたい!」「おれも!」と目を輝かせた数名が挙手しました。中には普段の園生活ではあまり絵を描く姿がない人もおり、「自分で拾った宝物に絵を描く」というコンセプトが魅力的に映ったのだろうと感じました。

園内のアトリエ(制作活動に集中できる部屋)に6人ほどが集まると、キャンプ2日目でどこにそんな集中力が残っているんだ!と驚くほど真剣に黙々と作業をする姿には、思わず隣にいて息をのみました。

Fちゃんのおにぎりの石

手のひらサイズの緩やかな三角形の石に顔を描き終わると「おにぎりだよ」と紹介してくれました。なんとも言えないチャーミングな表情のその石を他の石に重ねてみたり、ただ机に置いて見つめ合ったりして遊んでいました。表はにっこり顔、裏はちょっと怒った顔。

「いっぱいひろったからいっぱいかこうっと」

Tくんはいくつもの石を丁寧に作品にしたうち「これが一番お気に入りだよ」と花火を描いた大きな石を見せてくれました。花火の隣には昨晩の手作りピザも寄り添っています。

また、近くに座っていたBくんも白く輝く小さな石をしばらくじーっと見つめて、何か閃いた表情をしました。その後、真剣な顔でぽつっ ぽつっ と何かを描いていきます。「ねえねえ、見て」とそこで描かれていたのは、こちらも小さな点でできている花火でした。「くねくね山から見えた花火が綺麗だったんだよ〜」ととても満足そうな顔。夜のお散歩で観た打ち上げ花火は子どもたちの中でとても特別だったようです。

 

H君は石ではなく紙に力強い手で龍を描いていました。すごい熱気が伝わってきます。友達との時間に触発されたのでしょうか。

普段は外で虫探しやダイナミックな遊びを楽しんでいることが多いHくんも、この時間は自ら進んでアトリエへ向かい、自分の体験を繊細にアウトプットしていました。


ニスを塗ってピカピカになったみんなの作品をじっくり眺めました。

 

劇チーム

やまのこ保育園には「劇遊び」という文化があります。いわばごっこ遊びの延長なのですが、この劇遊びが好きな子どもたちは日常的に脚本や配役を自分たちで話し合いながら劇をつくり、お客さん役の人に向けて発表しています。そんな劇遊びをよく一緒にやっている保育者の優樹さんが「誰か一緒にキャンプの劇やらない?」と言いかけるやいなや「はいはいはい!」「アブラハヤ役やる!」「じゃあわたし魚の妖精!」と一瞬で川遊びのシーンの劇をやることが決定し、劇メンバーが集まってきました。みんなそれぞれアイデアがありそうな気配を感じた優樹さんが、「とりあえずやってみよう!」と声をかけ即興で劇が始まりました。この時点では大人にもキャンプの経験を演劇を通してアウトプットしようというような意図はなく、いつもの劇遊びのイメージで始めた「キャンプ劇ごっこ」のような雰囲気でした。

アブラハヤになりきる劇メンバーたち

 

「あるところに、1人の旅人が温海川へやってきました。」優樹さんがナレーションを始めると、「アブラハヤ!」「わたしもアブラハヤ!」「ぼくもアブラハヤ!」と川で出会った魚、「アブラハヤ」役の人たちが並んでやってきます。そしてストーリーは続き、旅人がアブラハヤをたくさんつかまえたがすぐに魚たちの元気がなくなってしまい困っていると魚の妖精がやってきて魔女に頼めば良いと教えてくれ、魔女を呼ぶと魔法の杖で魚たちを元気にしてくれるというものでした。1回のアイデア出しでストーリーの大枠が決まり、「じゃあ今のでもう一回練習してみようか!」と優樹さんが声をかけると、一度決まったかのように思えた脚本にどんどん要素が足し引きされ(魚の妖精や魔女がアブラハヤ役に入れ替わるなど)、最終的なストーリーはこのようになりました:

 

ある旅人が温海川に釣りをしにきました。「よぉし、たくさん釣るぞ!」意気込む旅人はアブラハヤをたくさん釣りました。ところがどうでしょう。釣ったばかりだというのに魚たちはもう元気がありません。困っていると「優しい魔女」が通りかかり、事情を聞いた魔女は「ちちんぷいぷいのぷい!」と魚たちに魔法をかけてくれました。するとピクリとも動かなくなってしまっていた魚たちがバタバタと飛び跳ねているではありませんか。「ありがとう魔女さん!」旅人と魚たちはTさん(バスの運転手さん)が運転するやまのこのバスに乗ってやまのこへ帰りました。さあ保育園についたぞ!旅人が魚たちをバスから降ろそうとすると、またもや魚は元気をなくしています。「さっき魔法で元気になったばっかりなのに!」旅人はもう一度魔女にお願いして魔法をかけてもらい、魚は元気を取り戻しました。元気になった魚たちは泳いで温海川へ帰ってゆきます。「温海川へおかえりー!」と旅人も泳ぎ去ってゆく魚たちに手を振ります。おしまい。

瀕死のアブラハヤたちに魔法をかける魔女

列になりバスにのるアブラハヤたち

 

このストーリーは時間でいえば、5分ほどで出来上がりました。ストーリーが出来上がっていくリズムには心地よいものがありました。劇作りがスタートすると、誰かが提示したアイデアに対して、別の誰かが即座に反応し、その反応に対してまた別の動きが出てきて…。まるでジャズのセッションのように、即興で各々のアイデアが呼応し、融合していく時間でした。子供たちは演じること、表現すること自体を心から楽しんでいるようでした。

一連の内容から、子どもたちの様々な体験が浮かび上がってきているように感じました。まずはアブラハヤ役の人たちの泳ぐ素早さ、元気がなくなった時のぐったり感、そして再び生気を取り戻した時のみずみずしさ。今回のお話に最も立体感を与えたアブラハヤの表現は全て彼らが前日の川遊びの時に体感したものでした。実際に水の中を走って魚を追いかけ、素手で捕まえてピチピチと動く体を感じ、保育園に魚を持って帰るか議論しているうちにプラケースに入れた魚が瀕死状態になっていた、あの感じ。目で見、手で触り感じたあの躍動感が表されているようでした。

旅人に釣られいきいきと飛び跳ねるアブラハヤ

 

もう一段階深く考察すると、今回のストーリーにはアブラハヤとの出会いと別れ、そこに対する子どもたちの願いが込められているようにも感じられました。例えば「優しい魔女」が魚を元気にする魔法をかけるシーン。足元を泳ぐ魚たちはあんなにもイキイキとしているのに、自分たちが観察するためのケースに入れた途端に弱ってしまう。そんな彼らにとっての不条理に対して、「魔法で元気になったらいいのに」というのは純粋な願いのように感じました。そして園バスに乗って保育園まで魚たちを連れてくるも、最終的には川にリリースするシーン。リリース、というよりは魚たちが自ら川に戻っていくような描写といった方が正しいのかもしれません。せっかく自分たちで捕まえた魚を手元に置いておきたい、みんなに見せたい、子どもたちの中にそのような強い思いがありながらも、魚にとってより良い環境は生息地の川であるという、ある種の突きつけられた現実もまた彼らの中に強烈なインパクトを残しているようにも思えました。

子どもたちが手掴みしていたアブラハヤ

 

石アートチームの子どもたちがお客さん役としてアブラハヤの冒険を観劇したところ、劇を観たメンバーから「お迎えきたらお母さんとお父さんにも見せたい!」との声があがり、実際にキャンプお迎え時に公演することになりました。お客さん役の石アートチームの人たちにも、きっと川での「あの感覚」が伝わったのだろうと思います。保護者の方々を交えた公演ではお客さん役だったメンバーもアブラハヤ役として飛び入り参加し、一度観ただけなのに動きやタイミングがピッタリでした。

 

子どもたちの表現の素晴らしさ

石アートやアブラハヤ劇にキャンプの全てが詰まっている。わけでは到底ないはずですが、改めてカサスチームさん(今年の年長さん)の感受性の豊かさ、表現の繊細さ、大胆さに心底驚き、敬意を覚えた時間になりました。彼らの誇らしげな表情に頼もしさを感じるとともに、卒園まであと何ヶ月だっけ……と早くも寂しい気持ちが生まれ始めたのは大人だけの秘密にしておいてください。

 

おわりに

例年のやまのこキャンプは、その年の年長さんの特性やカラーを保育者が見取りつつ、子どもたち自身のやってみたいことを聞き、それらをかけ合わせながらテーマを設定してきたこの4年間でした。それも、日常の保育ではできない冒険だったり、チャレンジなどをテーマに掲げることが多くありました。しかし、今年度のキャンプにおいては、キャンプへの参加に不安を抱いたり、期待もありながらも気持ちが揺らいでいる子も少なくなく、何か特別なチャレンジの類をテーマに持っていくことはやめよう、と保育者で話し合ったのでした。

また、今年度の年長さんは、homeからやまのこへ移行していった園児がたくさんいました。ふき組から見てきた園児の一人一人の成長を肌で感じることができ、とても嬉しくそして頼もしい姿を目にすることができました。まさに両園の保育者で達成できた一つの大きなイベントだったと感じています。

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