2021.07.01
「たべものと出会う」
Text : Saeko Imai
7月の初めにキャンプに参加する子どもたち、つまりあけび組年長さんを集めて、初めてキャンプのミーティングを行いました。今年の年長さんたちは、3月に巣立っていった先輩たちのキャンプ後の自信に満ち溢れる姿を見ていたので、キャンプへの意気込みはとても高いものでした。
まず「自分たちをなんて呼ぶ?チーム名何にする?」という議題に「レモン汁チームが良い!」というRくん。「メロンチームがいい」というHちゃん。なかなか決まらないなか、「あーもうお腹もすいたし、頭に何も入ってこないよ〜」というRくんの言葉にKちゃんが閃きました。「カラッポは?」と。みんな「おー!それがあったか!」という様子で、多数決をとると、圧倒的な数でからっぽチームに決まりました。それもそのはず、からっぽチームの子どもたちはいつもお腹がカラッポかのように、食や料理に対してとても好奇心旺盛です。
その次の議題は「キャンプで何食べる?」でした。「自分たちで材料を集めて、自分たちで作って食べる」を条件に、出てきた子どもたちの答えは意外なものでした。「塩!」「醤油!」「みそ!」などと調味料や、「トマト」「なす」の具材の名前が出てきました。私は「ハンバーグ」「味噌汁」など料理名が出てくると思っていたので、料理が分解された具材が出てくることに驚きました。
しかし、彼らの保育園での姿を見ているとその発想は納得です。長い子は何時間でも道具を使ってあけびの小さなキッチンに立ち、庭に生えているものやその日の野菜で「これを料理したらどんな味になるだろう?」とずっとクッキングをしています。そのため彼らにとって、料理は完成されたものを食べる行為ではなくて、具材と具材が反応しあってできるオリジナルなもの、ということは腑に落ちているような気がします。
自分たちで具材を集め、料理をするという”たべもの”の探究の始まりです!
「おしりしお」の誕生
「塩って何でできているの?」という問いに「海の水じゃない?」という答えが返ってきました。「じゃあ海に行ってとって来なくちゃね!」と、週末にからっぽメンバーがご家庭で海に行った際に海水をとってきてもらいました。
たっぷり入れてきた海水を見て「この水がどう塩になるの?」と不思議そうな顔をしていました。
しかし海水を舐めてSちゃんは「塩の味がするねえ」と言います。鍋にひたひた入れた水に火をつけてコトコト煮出される海水を見てMちゃんが「水がなくなってきているね。無くなった水はどこに行くの?」と疑問を持ちます。
待っている間、週末海で過ごした家族との楽しい時間の話や、「綺麗なお魚さんいたよ」とみんなの意識は海に向かいます。「海」という存在はあけびの子どもたちの中で大きい気がします。今年の2月に海の下を題材にしたミュージカルアンダーザシーをしたことは子どもたちの記憶の中でまだ新しいですし、からっぽのみんなは最初から「キャンプは海がいい!」という強い思いを持っていました。海がそれぞれに意味するものは違いますが、行ったら何か素敵なことが待っている、という共通認識はあるようです。その海の「味」を探求している子どもたちの姿はとても美しく見えました。
水が減ることで出てきたのは鍋に張り付くうっすら白い粉っぽいもの。「これ塩じゃない!?」とスプーンで削ります。それを舐めてみたら「しょっぱい!」。どんどん水が減っていくごとに白っぽい粉は増えていきます。「塩だ!塩だ!」と子どもたちは興奮を隠せません。500mlのペットボトルだけでもたくさんの塩が取れました。舐めてみると、ちょっと苦いけど、甘さもある、存在感が強いお塩。お店に売られている塩と比べてみても「私たちの塩の方が美味しい!」と自信満々です。「ねえねえ、おしりしおって名前にしよう!上から読んでも下から読んでもおしりしおじゃん」「いいねえ」と、あけび初の塩の名前は決まっていきました。
たっぷりあった水が白い粉状になる謎と塩の美味しさに、子どもたちはその後たくさんの海水を持ってきては塩を作って普段の料理に使う光景が生まれました。
野菜の調達
やまのこでの園庭では十分な野菜が取れないことで頭を悩ましていたからっぽチーム。「でもあんなちゃんの家ではぶらっくべりーがたくさんだよ!持ってこようか?」というAちゃんや、Rくんの「うちのおじいちゃんだだちゃ豆作っているよ。取りに来ていいよって言うはず」という言葉から、自分たちの周りでできているものの観察が始まりました。そこで、家庭菜園や農業をしているご家庭から野菜を持ってきてもらうことにしました。
また、地域の豊かさにも出会うために普段やまのこに納品してくださっている農家「菜あ」さんの畑にお邪魔し、なす・きゅうり・スイカ・とうもろこしの収穫をさせていただきました。目の前に広がるたくさんの野菜を見て子どもたちの目は光ります。きゅうりは当日浅漬けに、なすはカレーに、とうもろこしはスープに使われました。
その後ヤマガタデザインアグリ事業の畑にお邪魔し、たくさんの中玉トマトの収穫をさせていただきました。帰ってきてテーブルいっぱいに並ぶ野菜を見て子どもたちの心も高鳴るようです。鈴なりのトマトでたっぷりのトマトソースをSちゃんが作りました。
「パスタ」の探求
7月2週目になった時のからっぽミーティングで「キャンプでパスタ食べたい」という声が上がってきました。「パスタってどうやって作るの?」と聞いたときに「簡単だよ!麺をお湯で茹でてソースに絡めるだけ」という返答が。「それは出来上がった麺を茹でた話だよね。キャンプではできるだけ材料も自分たちで作る話じゃなかったっけ?」というと「。。。」と沈黙が広がります。「(材料は)小麦粉と水だと思う」とMくんが言います。「じゃあ家で調べてこようか?」と保育者が投げかけました。
Rくんが次の週に「おうちで調べた」と持ってきてくれたのはお母さんと作ったとても素敵なレシピ本でした。Rくんが調べた材料と作りかたに他の子どもたちは忠実に作ります。粉と水と卵を混ぜてコネコネしながら「粘土みたい」と手で混ぜます。硬すぎたり、柔らかすぎたりする生地を実験のように水や小麦粉を足しながら自分たちの生地を作っていきます。
出来上がったのはどしんとしっかりとした生地。市販のパスタは長細いものですが子どもたちはクッキーの型で形を抜き、茹ででオリーブオイルと塩で炒めました。出来上がったものは「硬い。でもおいしい」もの。たくさんできたパスタをみんなでやまのこの東屋の下で食べました。
本番も同じ作り方で、今度は包丁で切った細いパスタをYくん、Sくん、Kちゃんが作ってくれました。それもまた「硬いけどおいしい!」ものでした。それにSちゃんと保育者アイさんが作ったトマトソースを加え、それはもう絶品でした!
全ての料理が「具材」と「過程」の重なりでできているように、今回のからっぽチームのキャンプでの食事も、楽しいプロセスが重なり合ってできたものでした。家族で海水を取りに行った海の風景や、お鍋で塩が出来上がっていく香り、目の前に広がる野菜畑の光景、全てがからっぽキャンプのフードプロジェクトの一部として子どもたちの中で刻まれていったように。五感を使って自分たちの手で作ったものは、どこかで子どもたちの中に残っていくものだとおもいます。フードプロジェクトにご協力いただいた保護者の全ての方、菜あさん、ヤマガタデザインアグリさん、ありがとうございました!おかげさまで子どもたちとの食の歩みは豊かなものとなりました。