やまのこ保育園

惑星のようす

"Triangleの探究"

2021.07.01
Triangleの探究

Text : Asako Sugano

「あ!Triangle!」お味噌汁に入っている大根、誰かの靴下の柄、見上げた空の雲の形。三角形を見つける度に子どもたちの歓声が上がります。働く車の中でクレーン車に熱中する子がいるように、動物の中でぞうさんに惹かれる子がいるように、こごみ組の子どもたちは様々な形の中で三角形、そして英語のTriangleの響きに特別な魅力を感じているようです。
2021年の春頃から子どもたちが三角形に注目するようになり、それが一過性のブームで終わることなく数ヶ月が経った今でも毎日誰かがTriangleを発見しています。子どもたちはTriangleを通して何と出会っているのでしょうか。

きっかけは1冊の絵本
2021年3月に「Color Zoo」という絵本がクラスの一部の人たちのお気に入りになりました。丸、四角形、三角形、長方形、楕円形、ハート、四辺形、八角形、六角形、の順に形が重なり合い、ページをめくるごとに動物の顔を作っていくしかけ絵本です。形や動物の名前は英語で書かれていて、例えば1ページ目はトラの絵になっていてTiger、めくるとトラの顔の形がCircleになっています。何度も絵本を読んでいくうちに、三角形のページになると「Triangle!」と叫ぶ子が出てきました。その頃から、彼らは三角形のことを「さんかく」ではなく、「Triangle」と表現することを楽しんでいるようでした。

 

世界の解像度が上がる
絵本の世界から日常にTriangleがやってきました。最初は、”Triangle 発見メガネ”をかけたかのように、たまたま目に入ったものが三角形だと気づくことから始まりました。例えば、おにぎりや折れた給食マットの角、解体した遊具の廃材など。すると三角形に気づくことから次第に、Triangleを自分から探しに行くようになります。
それまでおままごとや工事ごっこで「ご飯」や「砂利」としてまとめて見られていた園庭に転がる石たちの中から、Triangleの石を探す遊びが流行りました。どんな環境の中でもTriangleを探し出そうとする子どもたちの眼力は日に日に鋭くなり、ある日とうもろこしを食べていた人が半分に割れた小さな粒を指に乗せ、「ほら!Triangle!」と教えてくれた時には、極小の三角形を見つけ出す目とそこに映る世界の解像度の高さに驚きました。
また、ほぼ並行してTriangleを作る姿もよく見られました。写真は一例で、指で作る人、ものを動かして作る人など。2、3歳の子どもたちが自分の体を動かして三角形の本質に迫ろうとする姿に、人間は生まれながらにして探究する能力を持っているのだということを直感的に訴えかけられた気がしました。

 

さまざまな形への興味と発展
Triangleを中心に他の形へも興味が派生してきています。くねくねやまで追いかけっこをしていた二人がいつもカエルやダンゴムシ探しをする散水栓の前で立ち止まり、「あ!Triangle!あとCircleとめっちゃちっちゃいCircle!」と教えてくれました。ここにも、いつも見慣れている風景の中に新しい発見する姿がありました。そして、蛇口のフォルムから三角形を想像したように、だんだんと「TriangleをつなげてDiamond(菱形)にする!」「Rectangle(長方形)をきったらSquare(正方形)になった!」など形を変化させることにも発展していきました。

最近印象的だったのは、おやつの干し芋を不思議そうに眺める人が、「ねえ、これTriangleじゃないよ。だってこの、なんだっけ、この、なんか、つのみたいなのがないもん」と言ったときでした。彼にはその台形のような形をした干し芋が、角が欠けた三角形に見えたようです。私は、昨日まで三角形を見つけて楽しんでいた人が、今日は三角形でないものを手に取り、なぜそれがイメージ通りの三角形でないのかを一生懸命考え言葉にするプロセスに立ち会えた感動を噛み締めました。

 

コミュニケーションツールとしてのTriangle
2、3歳の子どもたちが形を探究する姿は年下のクラスメイトにも影響を与え、1歳の人たちも「これはー?」と身の回りで見つけた形を質問したり、絵本の中でサルが楕円形に変わるページを気に入った人は一日中「おーば(Oval)!まんきー(Monkey)!」と言ったりしていました。「あ!こんなとこにもTriangle!」と誰かが気づくと「あはは!」と近くの人が反応して笑う場面や、「これなーんだ!」「えーっとTriangle!」というクイズのような会話に1、2、 3歳児全員が参加する場面が日常に溢れています。Triangleという共通の話題が年齢横断的にコミュニケーションを生んでいるのが興味深いです。

異なる言語の響きを楽しむ
子どもたちがここまでTriangleに夢中になったのは、Triangleという言葉の響きも関係しているように感じています。最初にColor Zooと図書館で出会ったときは形や色使いが面白いなと思って借りました。英語も要素の1つくらいに考えていたので、子どもたちが英単語の意味を理解し親しみを持って使い始める様子に驚きました。振り返ってみると読み始めの何回かは、「Triangle」と聞いても子どもたちはぽかんとした顔で黙っていました。何回か読むうちに形と名前がつながり、また日本語と英語の語感の違いを面白いと感じるようになり、ふざけたように「ちゅやいあんご!」と言う人がでてきて、だんだん広まっていったように記憶しています。大人は日本語、英語と分けて考えますが、1-3歳の子どもたちにとってそんなことはどうでもよくて、Triangleって言ったら楽しい!という純粋な気持ちが彼らの好奇心をくすぐり続けているのだろうと感じています。一切の偏見なく、異なる文化を受け入れ楽しむ姿に、子どもたちから学ぶことの尊さを覚えています。今後も彼らの探究を追い続けたいと思います。

 

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