やまのこ保育園

惑星のようす

"「園庭」から「小さな地球」へ"

2019.06.07
「園庭」から「小さな地球」へ

Text : Aya Endo

5月31日から6月2日にかけて、庭の造成工事を行い、グラウンドのように平坦だった庭が大きく変化しました。このプロジェクトは遡ること2018年1月、千葉にあるパーマカルチャー※・デザイナーのフィル・キャッシュマンさんの農園に今井彩恵子と私で訪ねたことからはじまりました。彩恵子さんは、アメリカ、バーモント州でパーマカルチャー・デザインを学んだ後、神奈川県にある保育園「ごかんのもり」で行われたフィルさんが講師を務める勉強会に通っていました。そんな経緯から、やまのこの園庭プロジェクトのアドバイザーになっていただくのは、この方しかいない!という強い希望によって、フィルさんにアドバイザーに就任いただくことになりました。

その後、何度も鶴岡に通っていただきながら、チーム全体でワークショップを重ね、じわじわ進めてきました。2日間の園庭ワークショップでは、「園庭」から「小さな地球」へと呼び名も変えよう、という提案も飛び出し、それ以降スタッフ間では「小さな地球」と呼ばれるようになりました。対話を通して自然と「地球に生きているという感受性」を育む場づくりへと、スタッフ一人ひとりの意識が変化していった結果だと思います。

私たちの「小さな地球」の課題と対応策をまとめてみます。

1.強風>木、野菜が育ちにくい
対応策→防風の役割を果たす築山をつくり、木を植える。それによって風の流れを変える。
2.水はけ>元々、田んぼの土地で土壌改良の必要性あり
対応策→勾配を作り、池をほることによって、水の流れを作る→水場ができる(遊びを通じつ学び・暑さをしのぐ)
3.日差し>木がないため、日差しを避ける場所がない
対応策→シンボルツリーを植樹し、それを支柱として日陰を作る

上記をプランに落とし込んでいく過程で、観察と調査のフェーズが長くかかったわけですが、今年の4月になって粘土で模型をつくり、スタッフ全体でイメージを共有するところまでたどり着きました。


5月31日の造成工事当日を迎えるまでには、さまざまな物語がありました。ふりかえってみると、庄内の土地と人の豊かさに出会う日々であったと思います。
例えば、ギャラリー・ティールーム翠の長登さんからご提供いただいた遊佐の間伐杉を土留めやガーデンベッドに活用させていただき、鳥海山の麓の豊かな土を畑用に、田んぼから掘った粘土を模型用に活用させていただくなど、庄内の土地の豊かさに素材を集める過程で出会ったこと。そして、地域の方々の「子どもたちにこの土地の豊かさを手渡したい」という気持ちにたくさん出会いました。機材、土、堆肥、苗の提供、貴重な時間をかけて相談にのっていただいたり、気にかけて時折様子を見に来てくださったりと、庄内の人々の心の豊かさにも出会っていきました。パーマカルチャーの理念の一つに「Creatively Use and Respond to Change」という言葉があります。この言葉のとおりに、みなさんとの対話と関わりの中からやまのこという場が耕されていく、変化していく、そんなエネルギーを感じました。

そして迎えた5月31日の工事当日。
子どもたちが隠れ家にしたり、くぐって遊ぶために築山の下に潜らせる土管を探していた私たちに、快く土管を提供くださった、東根市にある斎藤管工業さんが土管を運んできてくださいました。斎藤管工業さんは、企業主導型保育園の開園を検討されており、やまのこ保育園に数ヶ月前に視察に来てくださったことがご縁でつながりました。園庭に設置する土管を探していることをお伝えすると、「子どもたちのためなら」と奔走くださり、運搬まで含めて無償提供してくださいました。土管の設置は、工事のメインイベント。子どもたちは固唾をのんで見守っていました。東根につながる「東根トンネル」と名付けられた土管。たくさん遊んで、末永く大切にしていきたいと思います。

さて、土管設置後の工事の工程は、3種類の準備した土を盛ることと池を掘ることの大きく2つ。池がなぜプランに入ってきたかというと、やまのこの園庭のある土地は、元々田んぼだったところで地面を60cmほど掘ると水が出てきます。まだSORAIが工事中だった頃、実際に地面を掘ってみると確かに水が出てきたのです。そんなことから、この土地らしさを体現させるには、水が地面の下にあるということを子どもたちが遊びの中で体感できるようにすることが重要な要素だと考えました。安全性に配慮したゾーニング、深さで池をつくろうと計画していたのです。ところが、実際に工事2日目に池を掘り進めると、掘れども掘れども水が出てきません。130cm掘ってみると、じわーっと水が滲み出してきましたが、この程度では池になりません。防水膜を敷いて人工的に池につくることはできるかもしれませんが、それでは「この土地らしさ」を人工的につくることになってしまいます。
フィルさん、彩恵子さんと工事を担当くださった株式会社マルゴのみなさんと相談の上、池のプランは諦めて、池にと考えていたエリアに山砂を配置して、水はけのよさを保つためのエリア兼砂場に転換する決断をしました。

そんな計画変更もあったことで、2日目の工事も19時過ぎまで続き、翌週に改めて残った工事を行うことになりました。園庭の造成工事は無事に終えることができましたが、小さな地球づくりの旅はまだまだ続きます。交響曲で言うと、第一章の音が聞こえはじめたばかり。それでも、プロジェクト開始時点では思いもよらなかった演者が現れ、豊かなハーモニーが奏でられていることに喜びを感じています。

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※パーマカルチャーとは?
自然の中でみつかる関係性やパターンを真似しながら、ランドスケープをデザインすること。それと同時に、地域のニーズを満たすために豊富な食料、繊維、エネルギーを生み出すこと。もっと正確にはパーマカルチャーとはこのようなことを実行するための体系的な枠組みを提供するシステム思考と設計原則の使用であると考えています。」ーディビッド・ホルグレン著 ”パーマカルチャー 農的暮らしを実現するための12の原理” より
パーマカルチャーという言葉は、パーマネント(永久な)とアグリカルチャ-(農業)あるいはカルチャー(文化)を組み合わせた造語。

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