2021.02.01
そり滑り 遊びと文化の生成
Text : Takuto Kashiwagi
十数年ぶりの大積雪とも言われた今年の冬は、子どもたちにたくさんの出会いをもたらしました。深雪に身をしずめたり、様々な形の氷に目を輝かせたり、美しい出会いは枚挙にいとまがありません。その中でも、定番の遊びであるソリに着目して、子どもたちの世界に迫ってみたいと思います。シンプルな遊びだからこそ、発展する様子が興味深かったのです。
雪が降り始めた頃、定番の遊び場であるくねくね山でソリ滑りをする姿が見られるようになってきました。プラスチック製のソリの個数が限られているため、ビニール袋やスコップなど、いろいろなものを滑るために使ってみます。回を重ねるごとに、速度調整が巧みになり、それぞれお気に入りの滑り方ができていったようでした。
そり滑りに慣れてくると、立ってみたり、後ろ向きに乗ってみたり、複数人で滑ってみたり、滑り方の探求が行われました。前を向いて1人で滑る時とは、スピードも平衡感覚も違うことに楽しさを覚えている姿がありました。
雪に慣れてきた頃のある日、八森山で、Sちゃんが「ジャンプ台をつくる」と言って、坂の途中に段差を作っていました。共にジャンプ台を作ろうとする人は一人もおらず、Sちゃんは黙々と一人でジャンプ台を作り続けていました。Sちゃんの目は、ジャンプできたかどうかよりも、ジャンプ台を作ることに向いているようでした。
一週間後、くねくね山で、Jくんが「ジャンプ台をつくる」と言って段差を作り始めました。Sちゃんがジャンプ台を作っていた時には強い興味を示す様子がなかったJ君が、自発的にジャンプ台を作り始め、楽しむようになったのです。出来上がったジャンプ台を見て、Jくんは満足気な様子で、Kちゃんと一緒に何度も何度も滑り降りていました。
別の日、年長児の散歩でソリを作り始めたHくんとKちゃん。翌日、朝の集いで紹介すると、「私も作りたい!」とKちゃん、Sちゃんが木工作業をはじめました。二日がかりで作ったKちゃんのソリを八森山にもっていくと、見事に複数人でのソリ滑りを楽しむことができました。
滑れる素材と滑り方を探求し、「段差を作る」という形で環境を改変し、ソリという道具まで自作していった子どもたちの姿を見ていると、スノースポーツが発展した歴史を追っているような感覚を覚えます。スノースポーツという文化はまさに、子どもたちが辿ったのと同様に、「こうしたらどうなるんだろう」という好奇心や、「こうしたらもっと楽しいんじゃないか」という気持ちを原動力に発展してきたのではないかと思わされるのです。
そこまで考えたとき、私は、スノースポーツ以外の文化においても、好奇心や楽しさ、遊びが果たしてきた役割は大きいのではないかと思わずにいられませんでした。文化というものは、ある環境の中で人間の内側から湧いて出てくる気持ちによって形作られてきたのだ、と捉えることは、文化と自分を繋ぎ直し、改めて私たちが文化を築いていく能力を持っていることを確信させてくれます。
最後に、もう一つのあそびを紹介します。
風が強く吹き、地面に氷が張っていたある日、私たちは、シートに風を受けて、そりに乗り、氷の上を滑って進むことに成功しました。吹き飛ばされそうな風の力を転換し、自分たちを引っ張ってくれる力にすることができた時の子どもたちの表情と驚きは、忘れることができません。
自然から身を守る技術と文化を発展させてきた今、自然と接し、自分の身をもって自然を理解する機会は必然的に少なくなっています。一方で、変わりゆく気候の中でいかに生きるか、野生獣とどう付き合うか、エネルギーサイクルをどのようにデザインしていくか、等という課題と向き合わざるを得ないこれからの時代に、自然(地球)を理解していることが重要なことは明らかです。
自然の中で遊び、好奇心に導かれて環境に働きかけていく子どもたちは、文化を共につくっていく仲間として、頼もしくてなりません。
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