やまのこ保育園

惑星のようす

"~やまのこガーデン・HATAKEの中の子どもと大人~"

2024.05.01
~やまのこガーデン・HATAKEの中の子どもと大人~

Text : Miho Masakuni

1_はじめに

2024年度もあっという間に始まり、生命部ファームセクションの大人たちにとって、楽しくも気が逸るシーズンが到来しています。

※現在やまのこの大人たちは「部活動」というシステムの中で、それぞれの興味や担当に応じて活動しています。生命部は、生き物や食べ物、自然や環境に関わる領域・営みを豊かに耕していくことにより注力したい大人が所属する部活動です。

 

ファームセクションのメンバーは昨年度から引き続き4名(homeは尋子さん、yamanokoは彩恵子さんと菜穂子さん、HATAKEは主に正國)で活動中です。サブメンバーとして、ガーデンや園の歴史やストーリーを知りアドバイスをくれる千尋さんがいましたが、今年度新たに夏未さんと璃子さんがメンバーに加わりました。部活の設立から部活名もメンバーも流動的に変化してきましたが、昨年までyamanokoスタッフだった英夫さんがHATAKEの物置を設置してくれるなど、メンバーの手が回り切らない部分を力強くサポートくださっています。

活動内容についても両園のガーデン(園庭)のデザインや保守から、2022年度に中央高校グラウンド付近にお借りした畑地(通称HATAKE)の開墾、そこで野菜を育てるということへフィールドも営みも共に広がりました。

両園のガーデンは、子どもたちが毎日時間を過ごす園庭の環境の中にあり、日常の風景の一部として日々の保育に当たり前のように溶け込み、そこで育つ植物・暮らす生き物たちを、子どもたちは日常的に見たり触ったりします。草取りや種まきに始まり、水やりなどの手入れも子どもたちと一緒に行えることとして、保育メンバーが野菜や子どもたちの状態を見ながらタイムリーに行っています。子どもたちの生活の中で起こる遊びやクッキングに一役買ったり、保護者ややまのこに関わる人たちと季節感を共に楽しみ味わう豊かな彩りとして、ガーデンで育つ作物たちは環境の大きな構成要素であると実感します。ガーデンは各園保育メンバーのデザインと工夫・手入れで、豊かに構成され続けてきました。

 

一方、HATAKEは子どもたちが散歩で行ける距離ではありますが、子どもたちと園庭の距離感に比べれば、少し遠い感じのするフィールドでした。夏場熱中症のリスクがあるほど高温になった時などは行けなくなったりと、昨年度の振り返りとしてもアクセスのしやすさや頻度については課題感がありました。

今年度HATAKE部長となった私にとって、その距離感をどう縮めていくかは大きなチャレンジです。物理的側面に起因する、「ちょっと遠いな」感につながっている課題に、子どもだけでなく私たち大人の中からも徐々に払拭していく仕組みを作ってアプローチしていければと思っています。今年度、Slackで「#HATAKE通信」を展開していく取り組みも並行して行っています。やまのこの大人やご家庭に、ガーデンやHATAKEの現状をタイムリーに共有していくことで、まずはワクワク(時々ハラハラ?)する気持ちをシェアし続けていけたらと考えています。

そのためには、まずはメンバーが楽しむこと!日々の保育や事務作業と並行して、ガーデンや畑を維持管理していくことは、正直な所、時間的にも体力的にも決して容易に行えることではありません。その中でどんな工夫や仕組みづくりができるか、今年度のチャレンジではありますが、今回はHATAKEを通じた「保育」という視点から感じたことを書き留めてみたいと思います。

 

2_HATAKEを通じた「保育」という視点から感じたこと

ガーデンやHATAKEに関わる野良しごとを子どもたちと一緒に行うことを通じて、子どもたちひとりひとりの個性や興味のありかがつぶさに見えることがあります。

例えば「トイレットペーパーの芯で苗ポットを作って、土を詰めて、水をまき、種をまいて、水やりをする」という一連の作業があり、大人はこれを流れとして捉え、流れの中で作業として行います(多くの場合、そして天候、作業的な必要や時機にも迫られながら…)

子どもたちと一緒にこれをしようと思った時に、まず立ち止まり、一連の作業をかなり細かいパートに分解して見ていることに気づきます。そして、その作業に興味を示すひとたちの年齢や発達段階に合わせながら、時間的制約や天候などの現実的な側面と照らし合わせつつ、出来る作業を見極めながら任せてみます。

しかし、小さなひとたちは私の考えや想定を上回り、その作業を更に細分化した行為として切り取り、その行為を何度も何度も繰り返したりします。年齢が下がるほど、作業さより細かなパートに分解され、その反復動作は集中していて、密度の濃いものに感じられます。

先述した芯の苗ポット作りの場面で、年少(3歳児)のNさん、年中(4歳児)のTさんとIさんが、朝のアトリエでポット作りすることに興味を示しました。材料や道具や目的を大まかに伝えて、一度見本を作ってみてもらいました。芯にそのまま土を詰めれば下からこぼれてしまうため、新聞紙を小さく切ったものを丸めて底に詰める工夫をすることにしました。そして、何の野菜の種をまいたか分かるように、芯に名前を書いてから苗箱に並べることも提案しました。

 

発達段階や興味を引かれる事柄が異なる人が集まったわけですが、自然とリーダーシップをとったのはTさんでした。

作業の全容をキャッチして、自分がしたいことと2人にしてほしいことを伝えます。Iさんは私が伝えたことも、Tさんが言ったこともよく理解しているので、「私も(芯にペンで)字(野菜の名前)を書くのしたい」と伝えます。Nさんは、自分より少し大きな人たちに言われたことを、首を上下に動かしながらなりゆきを見ています。結局は、Tさんの畑作業にまつわる経験値のためか、思いの強さからか、野菜の名前を芯に書いていくのはTさん、新聞紙を丸めて底に詰めるのはNさん、ポットを苗箱に並べるのをIさんがすることになりました。子どもたちが言葉をかわしながら折り合って役割を決めて、的確に段取りよく進めていく光景に驚きました。そして深く見入ってしまったのが、Nさんの深く集中する姿です。苗ポットの底から土が抜けないように小さな新聞紙を丸めてポットに詰める行為を、時間にしたら10分程、楽しむと言うよりはまるでその行為全体の感触を味わうかのように深い集中の中で繰り返していたことがとても印象的でした。TさんとNさんの行為をつなぎつつ、根気強く芯を苗箱に並べてくれたIさん、Tさんは最後の1本まで芯に「とまと」(「と」は鏡文字)と書き続けてくれました。

別の場面では、ジャガイモの植え付けの前に、大きな種芋を切断して、その切断面に灰をつけた時のエピソードがあります。大きい種芋はそのまま植えないで、一片40g程度になるように、かつ芽が出る部分が各片に均等に入るように切っておきます。切り口を乾燥させ切れない場合は、切断面からの腐敗を防ぐために灰をつけておきます(このやり方については諸説あります)。やまのこでは日常的に焚き火をするので、今回は森の日で焚き火をした後の木灰を持って帰ってもらい、それを切断面にまぶすことにしました。

種芋の切断は少しコツがいるので、大人がやりました。お昼寝後のyamanoko園庭に作業台を設置、切って、木灰をまぶすスペース、まぶした種芋を並べるスペースというふうに、トレーを並べておきます。保育者が種芋を切っていると、しばらくして子どもたちが「何やってるの?」と近づいてきます。この時、大人がしていることをじっと見ていたのは、Sさん。切った種芋に灰をまぶすことを、何度も何度も繰り返してはトレーに並べています。今度はそれを見て、Cさんが加わります。2歳児と年少のふたりが、灰をまぶしては並べるという行為を種芋4キロ分、最後まで黙々と行ったのでした。Cさんは芯ポット作りの時Nさんの近くにいて、それには全く興味を示さなかった一方で、この行為には興味と集中がガチッとはまった印象を受けました。

次の日の朝、灰をまぶしたジャガイモをお散歩でHATAKEまで植えにきてくれたのは、年中(4歳児)以上の子どもたちが多く、HATAKEまできて、作業を聞いて・見て・実際にすることが出来、その後また園まで自分の足で帰ることのできる体力とモチベーションも必要なのかなと想像します。「このくらいの間(株間)をあけて植えると、ジャガイモは元気に大きくなれるよ」と、実際に目にみえる形で畝にジャガイモを並べてみると、Tさんが視覚的に入った情報から、その間隔を上手に掴んで置いていることに驚かされます。Yさんは何を植える時でも、とても慎重に、丁寧に植えてくれます。

大人の私にとっては、一連の流れの中で見ている農作業も、子どもたちにとってはもっと細分化された行為として捉えているのだと気づかされます。自分が興味を持つものだったり、発達段階としてその行為を必要とするタイミングだったりすれば、子どもたちが内側から湧いて来るような欲求に突き動かされて、深い集中と共にその行為を反復する場面に出会います。

それを見たり、一緒に作業をしている私も、子どもたちの行為から多くのことを発見し、それが学びへとつながっていることに気づきます。子どもたちの興味や欲求は、同年齢といえども大きく違っていて、それはひとつひとつの行為を通して伝わってくることが多いんだなぁと改めて感じています。それは彼らが考えてそうしているのではなく、「いま、この瞬間の」子どもたち一人一人の内側から、とても大きなエネルギーと共に自然と発せられるものだと強く感じます。

やまのこでの野良しごとを通じて子どもたちと関わることが増えた私自身は、子どもたちのニーズに寄り添い、彼らが最大限それを試すことができるように、作業工程をもっと端的に伝えたり、必要最小限のサポートが出来るようになりたいとしみじみ思います。ひとりひとりの発達段階や興味や好き嫌い、個性に気づける大人でありたいとも思います。このことは子どもたち自身の心身の成長を保障し促進することにつながりますが、大人である私自身のチャレンジであるとも感じています。

そして、HATAKEやガーデンが、野菜や植物を育て・手入れをする中で、五感からたくさんの情報を受け取り、子どもたちの中で食べ物にまつわるストーリーがたくさん芽吹いたり、生き物や私たちが生きている地球への感度が高まるだけでなく、「自分が何が好きで、どんなことが心から好きで楽しめるか」という、自己理解への感度を育めるフィールドのひとつになっていけば良いなと思っています。

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