2020.07.18
混ざり合う可能性
Text : Mina Ito
登園自粛期間の園児数・職員数共に縮小した形での4月からの日々、 私たちの暮らしが変わっていきました。登園児の年齢や数に応じて、ゼロから室内環境、大人の配置、消毒範囲などを見直し、クラス・担任の枠を超えた混ざり合っての暮らしがスタートしました。
子どもたちはふき組・わらび組にかかわらず一緒に散歩をし、ひとつの部屋(わらび)で食事をし、眠たくなると静かなもうひとつの部屋(ふき)へと空間を変え眠りにつきます。また、これまで分かれていたクラスが混ざり合うことで、保育者がやまのこhome全体を把握していくための共有時間の必然性が生まれ、毎日保育者全員が話し合う20分の共有タイムが確保されました。多様な視点や気づきの共有は何より学びとなり、そこから新たな問いが生まれてきます。そして振り返った内容を翌日には実行へ。以前よりはるかにスピード感を持って暮らしを作っている感覚があります。
混ざり合って暮らしていくと、クラス・担任など分けて考えていた固定概念がいつのまにか崩れていき、新たな可能性が見えてきています。以前はふき組保育室から窓越しにわらび組の様子を覗いている感覚でしたが、今は、クラス・担任の枠を越え、やまのこhome全体の子どもたちの様子、大人たちの様子が見えるようになり、その上で「じゃあどう動こうか?」と考えるようになったのは大きな変化です。また、クラス・担任にとらわれない人と人の繋がりが、子どもにも大人にも生まれてきています。共に暮らしていくには信頼関係があってこそ。やまのこhome全体がまさにお家で、あたりまえの存在として互いを認め合っているように感じます。
暮らしの変化を子どもたちはどう感じているのか。久々に登園したKくんがおもちゃをひとつずつ手にとりながら「いいおうちだね、ここ」と呟きました。彼が知っている以前のやまのことは何か違う、という感覚だったのか、心地よい場所に来たな、という感覚だったのか。子どもたちは以前と違う混ざり合った暮らしに少しずつ順応し、互いに助けあったり、教え合い関わる姿がみられます。同時に、慣れ親しんだ保育者(担任)との1対1の落ち着いた環境からの変化に戸惑う0-1歳児の姿もありました。出て来た課題は都度共有タイムで話し合い、環境のデザインを繰り返しながら試行錯誤しています。0-1歳児が安心できる落ち着いた空間や、全ての子どもが自分の好きな場所を見つけ、個々がじっくりと遊びに没頭できる環境をどう保障していけるか。「人・空間・時間のデザイン」が常に求められていると感じます。
庭には水遊びや絵具で思いのままに描く子、苺摘みや植物の水やりが大好きな子。室内にはお気に入りの絵本を繰り返し読んでもらう子、陽が差し込むカーテンが風で揺れるそばで体を揺らしながら音楽を聴いている子、布おむつに足を入れながらなんとか一人で履こうとしている子。ある朝「きょうはダンスのじかん。」と登園してきたSくんが、わらび保育室にあった絨毯の籠を持って、少し広いスペースがあるふき保育室へ行き、絨毯を敷いてその上で踊り始めました。そこにHくんが加わり、しばらくするとふき組のEちゃん、Sちゃん、Zくんが手を繋いでその周りをぐるぐる動いていました。2つの部屋の行き来、庭と室内のあり方、クラスを越えた混ざり合い。これらの光景を見て、空間を自由に行き来しながら自分の好きな場所をみつけ、遊びに没頭できる環境デザインの可能性を感じました。また、自ら好きな時に好きな居場所を見つけて遊ぶ、場を自分のものにしていく力が培われているようにも感じました。
自粛期間中、草を抜き、土をおこし、小さな種を撒いた庭には、今、少しずつ芽が出てきています。この非常事態から私たちは何を見出すか。以前と同じ暮らしに戻るのがいいのか、様々な視点で振り返り問い続け、答えのない新たな営みとしてチャレンジしていくのか。庭が活性化していくのと呼応するように、室内環境も、今は土壌を耕し、そこにいくつもの種を撒いている段階かもしれません。日々その芽がどんなふうに育っていくのか、じっくり丁寧に関わって一緒に育っていこうと思います。