やまのこ保育園

惑星のようす

"年長さんの月山登山  "

2020.10.01
年長さんの月山登山  

Text : Chihiro Taniguchi

春先から構想を練っていた月山登山。雨天や強風で延期になり続けましたが、9月20日に決行することができました。
今年の年長の子どもたちと過ごす毎日の中で感じるのは、豊かな感性が広がり、観察する力・発展させる力・実行する力が育ち、少し難しいことにも挑戦することができる力が備わってきているな、ということです。

これらの状況から、彼らに差し出してみたいチャレンジは自然にいくつかあがってきました。そしてその第一ステップは8月のやまのこキャンプでした。この時点で第二ステップとして月山登山を計画していたので、キャンプでは助走として小さな山を登山することを計画に組み込みました。

山形の人たちにとっては、人々を護ってくれている存在である月山を、いつも眺めている月山を、この子たちと登ってみたい!五感をフルに働かせながら月山を感じてみたい!という思いがあったのです。
そして、この子たちなら登れるという確信と、登った後に得られる興奮と自信への手応えが私にはあったので、どうにかして実行したいという願いもありました。
当日、薄い霧の中をバスで進み、目指すは、北面の月山八合目。ルートは弥陀ヶ原〜九合目山小屋まで。心配していたお山の天気も徐々に回復し、登り始める直前には太陽が出て風も弱まってきて、月山が私たちを応援してくれているような条件が揃い、出発です。

 

いざ登り始めると、雲の動きの速さや雲との距離、風の冷たさ、植物の色など、たくさんの非日常の情報が子どもたちを刺激し、五感に働きかけてくれていました。
それに応えるように、子どもたちの中でも新鮮な発見が幾つもありました。

 

備忘録より…
『かぜめっちゃつめたい!こおりそう!』『くもがこんなちかいのはじめてだね!てがとどきそう〜たべれるかな?』『そらのうえまできたのはじめてだー!』『みて!ちきゅうがみえるよ!』
など、感じたままの言葉が次々にあふれ出します。

また、普段歩いている平坦な道とは違う岩場や、でこぼこ道に戸惑いながらのスタートでした。
何度も転んで何度も滑っている間に身体が慣れていくような、環境に応じて身体の使い方が変わっていくような、そんな姿がみえたような気がします。理屈ではなく、全身で感じ取り、自分の身体にとって最善な方法を習得していったように思います。これらの姿から、子どもたちの身体や精神の強さや賢さを改めて知ったような気がしました。

そんな彼らですが、序盤は登りながらも順番争いなどで泣いたり怒ったりしていましたが、山道の厳しさが増してくるとそんなことも言っておられず、ヘトヘトになっているような様子もありました。そんな中、ある休憩ポイントで江戸時代の頃から話し繋がれている三関三渡の行に基づく、出羽三山の話をしてみることに…

 

羽黒山は今の世界、月山は死んだ後の世界、湯殿山は生まれる前の世界と言われているということや三つの山を訪れることで生まれかわりの旅ができるという話を始めると、そこにいたメンバー全員が思考をぐるぐると巡らせているような表情で真剣に聞いている姿がありました。そしてリスタートして間も無く『ちょっと待って!ぼくたちは今、死んでいるってこと?』『そうか!きつすぎて死んじゃうってことか!』などと、彼らなりの解釈をしていた場面もありました。私の言葉は彼らの思考の中でどのように変換されたのか、どのように届いたのか、とても興味深い時間でした。

終盤、先頭グループと最終グループの間はだいぶ広がっていましたが、一人一人のペースを守りながら登っていくことができました。後半は特に無理せず自分と向きあいながら登る時間が長かったように思います。その中でも少し前方に、または少し後方に仲間がいること、仲間の声が聞こえることがエネルギーや支えになっていたのかもしれません。一人では難しいことだけれど、仲間の存在が勇気づけてくれることも感覚的に経験できた手応えがあります。今回の登山ではみんなで取り組んだという一体感や達成感は感じられたのではないかと思います。

 

また、登山中にすれ違う人々に『こんにちは』『お先にどうぞ』『ありがとうございます』という言葉が徐々に出てくるようになったことも変化の一つでした。
降りる人を優先することや狭い山道で道を譲り合うこと、挨拶を交わすことなどといった、登山者の間で交わされる心遣いやルールなどを理解し、登っている間に自然と実践するようになっていたのです。半日で彼ら彼女らは、立派な岳人になっていました。山という社会の中で多くのことを受け取った一日になったようでした。

下山するときも、疲労が溜まっているためか足元がふらつく姿や、小さな段差でもつまずいて転ぶ姿もありましたが、それぞれのペースを保って降りました。
8合目到着時のやりきった表情、そして仲間を出迎える時の声援と嬉しそうな表情、抱き合って讃え合う姿が、この日の全てを語っていたような気がします。

いつか、ここにいるみんなで頂上を目指したい!と強く思った瞬間でもありました。
力の限りを尽くした一日の帰りは、夕日を浴びながらよく眠っていました。眠っている顔を眺めながら『本当によく頑張ったなぁ』感じつつも、帰園時間が予定よりも遅くなっていたことで気持ちを急かしながらやまのこに戻りました。バスが到着した時に保護者の皆様が拍手で迎えてくくださった時は、安堵の気持ちと感謝の気持ちで胸が熱くなりました。
装備品の準備や日程の調整でご協力頂きまして本当にありがとうございました。
年長さんの第三のステップ、第四のステップは構想中です。この子たちと過ごせるのもあと半年弱。私たちが準備してあげられることを最大限を実現していきたいという想いでいます。

 

 

羽黒山は現世の幸せを祈る山(現在)、月山は死後の安楽と往生を祈る山(過去)、湯殿山は生まれかわりを祈る山(未来)と見立てることで、生きながら新たな魂として生まれかわることができるという巡礼は江戸時代に庶民の間で、現在・過去・未来を巡る「生まれかわりの旅」として広がったと言われています。(日本遺産 出羽三山 HPより引用)

 

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