やまのこ保育園

惑星のようす

"混じり合うこごみとあけび"

2021.09.01
混じり合うこごみとあけび

Text : Ayane Fukumori

 

いつの日も、子どもたちは大きい子たちに憧れを抱いています。

こごみからあけび*に”移行”するという文化があり、それを見届けてきたこごみの子たちにとって「あけびにいく」というワードはとても魅力的であり、同時に少しドキドキする大きなステップです。

現在はゆるやかにクラスの垣根を取り払い、より子どもたちが過ごしやすいグループ編成へと変化している途中の段階です。

でもそれはあくまでも大人の中での話。

こごみとあけびの子どもたちが混ざり合って過ごす時間が増えたことで起こった化学反応をいくつか紹介します。

 

*「こごみ(組)」は1-2歳児、「あけび(組)」は3-5歳児が暮らす場の名称です。それぞれの部屋は同じ建物内にあるため、子どもたちはどちらの部屋で過ごすこともできます。

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【Aちゃんエピソード】

特にあけびへの憧れが強いのは兄弟がいる子たちです。Aちゃんもその一人。

8月頃から給食をあけびの部屋で兄のBくんとと一緒に食べることを始め、それをきっかけに「あけびにいく、Bくんとあそぶ」と言うことが増えました。仲良しのCくんとDくんの兄弟もこごみ・あけびの組み合わせなので、4人でよく遊ぶ時期もありました。

そんなある日、Bくんだけが体調不良で欠席することがありました。Aちゃんも登園後すぐに「Bくん、ママとおうちにいるの」と教えてくれました。そしてそのまま続けて「Aちゃんあけびであそんでくる!」と言ったのです。

私はこの一言にとても驚きました。AちゃんにとってあけびはBくんがいる場所で、Bくんと遊びたいから行くんだと思っていたからです。

以前はもちろんそうだったと思います。しかし、Bくんと過ごす楽しい時間を積み重ねたことで、いつの間にか彼女にとってあけび自体が自分で選べる遊び場のひとつになっていたことに気付かされました。

その日、ひと遊びしてこごみの部屋に戻ってきたAちゃんは、ぴかぴかの顔で「あーたのしかった!」と心からの言葉を聞かせてくれました。新しいフィールドで冒険しつつ、安心できる基地としてこごみに帰ってくる、今の時期ならではの”行ったり来たり”を楽しんでいるようでした。

 

【Eくんエピソード】

こごみ・あけびの行き来が増えたことは、こごみの中でも小さい子たち(1歳児)にも、もちろん色々な影響がありました。

こごみでもじわじわ人気が上がってきている恐竜ブーム。恐竜のフィギュアはあけびの部屋にあるので、こごみの子たちも、特に夕方にそのコーナーで遊んでいます。しかし、フィギュアはあけびの子たちにも人気のおもちゃ。ある日、3歳児のFくんが恐竜で遊んでいる周りで、ウロウロしている1歳児のEくんの姿がありました。千尋さんがその様子に気づき「どうしたの?」と声をかけると「Eくんもブラキオサウルスつかいたいの」とのこと。その声を聞いたあけびの女の子数人が「Eくんつかいたいの?こっちだよ!」と助け舟を出してくれましたが、夢中で遊んでいたFくんに「だめ!!」と大きな声で一蹴されてしまいました。その迫力にびっくりしてすくんでしまったEくん。一度はブラキオサウルスを諦めたように見えましたが、しばらく経ってから千尋さんが「Fくん優しいから触らせてくれるよ、もう一回聞いてみる?」と促してくれました。”優しい”と言うワードを近くで聞いていたFくんは「ちょっとだけだよ」とフィギュアを差し出してくれました。それでも先程言われたことがよほど印象強かったのか、ちょっとだけという言葉を忠実に守ろうとしたのか、人差し指でチョン!と撫でるだけで「もういい」と言ったEくんでした。

緊張したり、遠慮したり、周りが助けてくれたりといった様子は月齢が近い子同士のやりとりではあまり見られない反応で、どこか新鮮な姿でもあり、その中で新たな人間関係を築いているんだと感じました。

 

【給食時間のエピソード】 

最近では毎日のようにこごみの誰かがあけびの部屋で給食を食べていて、こごみ・あけびが混じり合って食べる風景もすっかりおなじみとなりました。こごみの子どもたちも自分の気分に合わせて「きょうはこごみでたべる」「きょうはあけびいく」と選んでいるようです。

そんなある日、あけび組のGちゃん、Hちゃん、Iちゃん、Jちゃん、Kちゃんが「きょうこごみでたべていいー?」と聞きにきたことがありました。今までこごみの子があけびに食べに行くことはあっても、その逆はありませんでした。でも席は空いているし、断る理由もありません。いいよ、と言うと「やったぁ!」と嬉しそうにそれぞれの給食を運んできました。「わたし(こごみ組の)Lちゃんのとなりがいい!」「ねぇ〜イスちっちゃいんだけど!」と一気に賑やかな雰囲気に。成り行きを見守っていたこごみの子たちも、お姉ちゃんたちが一緒に食べると分かって笑顔が溢れます。大人数では座れないけれど、その分お互いの様子がよく分かる距離感でほっこりと過ごすことができました。

 

【変わり続けるやまのこ】

クラスの枠組みって何のためにあるんでしょう?

集団生活のなかで大人が子どもたちの様子や状態を細かく把握するため、年齢に合った環境や遊びを提供しやすくするため、などメリットがあるからこそ、全国の多くの園で採用されているのだと思います。

そしてクラス(年齢)による違いがあるからこそ憧れの気持ちが芽生えたり、その思いが「ぼくもあんなふうにやってみたい」とモチベーションに繋がることがあります。

でもデメリットとして、子どもたちの「あっちであそびたい!」という思いを、大人が決めた枠組みで「君はこっち、あなたはあっちのクラスだから」と叶えてあげられないことがあります。その両面を天秤にかけ、より良い形を模索しているのが現在のやまのこです。

やまのこは絶えず変化する場だと実感しています。何か変化があれば子どもたちは必ず反応を示します。そのサインを逃さずキャッチし、子どもたちのより良い時間のためにさらに柔軟に変動していける場でありたいと思います。

 

 

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