2020.06.18
劇づくりがわたしたちにくれたもの
座談会実施日:2020.6.17
聞き手:遠藤綾
話し手:あけび組保育者 3名
-最初にどんな想いがあって劇づくりへつながっていったのか、聞かせてください。
C:あけび組では、個々が活動を選択できるからこそ、みんなで構築していくとか、みんなで解決していく、というような取り組みの機会があまり持てないという課題認識がありました。年長さんがあと数ヶ月で卒園するということもあって、お友達の話をじっくり聴くことや、ひとりでは難しいことにみんなでチャレンジする、というような経験を重ねたいということで、劇づくりのプロジェクトがスタートしました。
T:歌ったり踊ったりすることが好きなYちゃんの興味関心から、箱椅子と板でステージをつくることになって、そこから演じる遊びがあけび組に生まれていったということもきっかけとしてあったと思います。
C:劇づくりは、発表するために取り組んだものではなかったので、最初は発表を予定していませんでしたが、子どもたちからおうちの人を呼びたいという提案があって、急遽「あけびシアター」の実施を決めたという経緯がありました。
写真:スイミーチーム
-3つのチームがありましたが、それぞれどんなふうにスタートしたんですか。
C:まず、メンバーをわけるにあたって、演じることが大好きな人たちが集まったSさんチーム。みんなの前で演じることに積極的ではなかった子たちが集まったCチーム。いろんな子が混ざったTくんチーム、と3つのチームに分けました。スタートの時点でチームごとに子どもたちのモチベーションが違っていたのと、大人も大事にしたいことがそれぞれ違っていたということがあったと思います。Sさんは、演劇をずっとやっていたから、演じることが大好きな人たちはSさんチームしかないというのはすぐに決まりました。
S:私は、小学校5年生から大学2年生まで演劇をしていて、そのプロセスが身体に染み込んでいるから、劇づくりがはじまってからずっと子どもたちと一緒にどうプロダクションするかということを考えていました。わたしも一緒に楽しみたい!という、熱血な感じでのぞみました(笑)
写真:スイミーチーム
–Tくんは、どんなことを大事にしたいと思って臨みましたか。
T:ちょうどサークルタイムを自分が担当する日もあって、いろいろ試していたということもあったから、子ども同士の対話をもっとやってみたい、もっとできる、という想いがありました。初回のミーティングのときに「これは僕の劇じゃなくて、みんなの劇だから。手伝いはするけど、完成させるのは君たちです」と子どもたちに宣言するところからはじめました。大人を通してコミュニケーションするんじゃなくて、子ども同士で話したり、ぶつかったりしてほしいという想いがありました。
C:前半、Tくんがあんまり介入しないことで、子どもたちの中にも「劇、やるの?」という迷いがあったような気がします。定着しないというか。
T:モチベーションがあがるタイミングは、子どもたちそれぞれで違うんですよね。最初からモチベーションがあったのは、Kaちゃん、Kiちゃんだったと思います。最初の話し合いのファシリテーターはKちゃんで、劇の基本アイデアの提案はNくんからだった。
C:子どもたちが自分たちでつくる、ということでアイデアはいっぱい出るけど、具体的に実現することは難しい。だから、三匹のこぶたチームは、何度も壁にぶつかっていたように思います。
T:やりたい且つチャレンジングなことって、それぞれに違うんですよね。Kiちゃん、Kaちゃんは台本を覚えて演じることにモチベーションがあったように思うし、Kちゃん、Rくんは、自分のイメージをかたちにすることにモチベーションがあった。Iくんは人とぶつかる、ということ自体をいきいきとやっていたように思った。それでいいんだと思ったんですよね。
6日の発表直前の3月3日の練習中、子どもたちがふわふわしていて練習できない状態だったので、僕から「もう劇やめよっか」って提案したんです。そしたら、Kiちゃん、Kaちゃんはすぐに「劇やりたい」って言って、「劇やりたい人は手あげて」とKaちゃんがみんなに声をかけたら、Iくん、Rくん、Jくん以外は手をあげたんです。それで、3人以外でやろう、となった。でも、Iくんはすぐに戻ってきて、やっぱり一緒にやるってなった。みんなで通しの練習をした後に「JくんとRくんどうする?」って、みんなと話したら「お客さんやればいいんじゃない?」という提案があった。その提案の後すぐに、Jくんがみんなのところにやってきたので、Kiちゃんが「なんでやめたの?」ってきいたら、Jくんが「絵の具したくなったから」って応えた。Kiちゃんが「そういう気持ちになったの?」って返したら、Jくんが頷いたんです。それで「もう1回やるの?」ってKiちゃんが聞いたら「やる」と応えた。その後すぐに、IくんとKiちゃんがRくんを呼びにいくと、Rくんも「やりたい」って応えた。それから、この日くらいから、Nくんのモチベーションがあがってきて、通しの練習が終わったらすぐに「もう一回練習やろう、愉しいから」って発言があって、それからは、Nくんが全体を仕切り始めました。
C:スイミーチームは「どんなおはなしやってみたい?」ときいても、誰も何もいわなかったので、絵本を3冊選んで読んだら、スイミーがいいとなって、題目はスイミーになりました。劇づくりへのモチベーションが高い人が最初はいないチームだったので、台本をつくって役を決めたり、衣装やセットを一緒につくることで、モチベーションがあがるのではないかという期待もあって、衣装やセットづくりを最初に取り組みました。そうした中で、子どもたちから少しずつ具体的なイメージをだしてくれるようになっていきました。自分でイメージをかたちにするところまではいかなかったので、材料だけは私が準備して、子どもたちがつくるというかたちをとりました。みんな最後のほうは練習愉しい!って言いながら演じていたので、演じることの楽しさは感じられていたかなと思います。
S:ライオンキングは、セリフが多かったんですけど、自分のセリフを練習したいという気持ちを子どもたちがもってくれていたように思います。チームの中でもモチベーションにグラデーションはあったけど、YちゃんとDちゃんは、中間発表で人に見られる、ということがあって変わっていったような気がします。少しずつ練習してあたためたものをみんなの前で表現する、ということをはじめて経験した人もいたと思う。最初から楽しめた人もいれば、お友達の勢いに押された人もいた。Mちゃんは最初はやらないっていって、音楽とカーテン担当だったけど、ある日急に「しまうまやる」ってスイッチがはいって、しまうま役を演じきっていた。本当に人それぞれ、スイッチの入り方が違っていたのが印象的だった。Yちゃんは演じる楽しさを知って、みんなをまとめていくリーダーになっていきました。
写真:ライオンキングチーム
-劇づくりから今につながっていることって、どんなことがありますか。
S:表現の楽しさ、表現は自由でいいということは、あの経験を通して、もっと日常的になったように思う。私は表現って日常的なもので、愉しさを可視化してくれる管のようなものだと思っているんですけど、その管が以前よりもしっかりしたものになったようにに思います。
T:僕はあけび組をみていて「相手に興味を持つ」ということに課題を感じていました。子ども同士で生み出されるものが少ないような感じがしていたんですよね。
でも、劇づくり後に、子ども同士で生み出すことが増えてきたような気がします。それは、これをつくりましょう的な予め完成形が用意された劇づくりじゃなかったから、生まれてきたんじゃないかな。演じるのを楽しむ人、イメージをつくることを楽しむ人、ぶつかることを楽しむ人、いろんな楽しみ方がある「劇」という素材を通して、大人が子ども一人ひとりのニーズがどこにあるのかということをしっかり見ながら進められたのがよかったと思う。
C:これがすごい成果としてみえた、ということは言えないけど、これまでは対大人でニーズを出す傾向が強かったのが、子ども同士でニーズを出し合えるようになってきた感じがします。子ども同士で「こう思うんだけどさ」とアイデアを差し出すと、また誰かのアイデアがそこに積み重なっていく、という経験がこの劇づくりで経験できたことは、みんなにとって大きかったんじゃないかと思っています。
S:楽しかったから、また今年もできたらいいね!
写真:3匹のこぶたチーム