やまのこ保育園

惑星のようす

"からっぽの旅"

2021.09.01
からっぽの旅

Text : Yuki Baba , cooperated with Takuto Kashiwagi

 

9月末から10月末までの一ヶ月、からっぽチーム(あけび組年長11名の通称*)は、全三回の「旅」をしてきました。自分たちがどこに行きたいのかを話し合い、行く方法を調べ、お弁当を当日の朝に作り、目的地まで歩く。時には片道2時間もの長い道のりを風に吹かれながら雨に打たれながら歩いたこともありました。

*「からっぽチーム」の由来については次の記事をご覧ください。
「たべものと出会う」

旅のきっかけはAちゃんの一言でした。ある日、「歩いて遠い遠いところに行きたい!」と言ったAちゃん。その声に、その場にいた人たちが賛同し、いつもの散歩よりも遠い鶴岡駅や鶴岡公園に歩いて行くことになったのです。目的地についた時は達成感で子どもたちの表情がキラキラしていたと、同行した保育者のさえこさんは言っていました。この時の散歩の経験がからっぽチームの「旅」に発展していきました。

 

 

からっぽチームと共に計画し実行した全三回の「旅」は、保育者である私にとってもたくさんの気づきを得る経験となりました。いくつかの印象的なエピソードを紹介していきたいと思います。

「からっぽ会議」

一回目の旅はBくんが「うちに来てもいいよ〜」と誘ってくれたこともあり、Bくんの家に行きました。無事にBくんの家への旅を終えた次の日、早速二回目の旅の計画を話し合おうと、からっぽチームが集まりました。

「次はどこか行きたいところある?」とからっぽチームに問いかけると、すかさず、「くしびき!」「イオンモール!」「エスモール!」「ゆうきさんのおなかの中!」「Cちゃん家」「ぶどう狩りに行きたい!」「Dちゃん家」など、続々候補が挙がります。

「イオンモールなら歩いていけるよ。おれん家からけっこう近いよ。」とBくん。「歩いていけないよ。バスで行ったらいいじゃん。」と、Dちゃん。Bくんは「バスで行ったら旅って言わないよ。」Eちゃんも「旅っていうのは新幹線とかに乗るってことだよ。」と言います。人によって「旅」のイメージが少しずつ違うようです。

「Cちゃん家にも行きたいな〜。」とFちゃんが言うと、「じゃあさ順番に行ったらいいんじゃない?」とCちゃん。続けて、「行きたいところをみんな調べてきて、それで明日発表するの。」Cちゃんの提案にみんな賛成ということで、その日の話し合いはここでおしまいになりました。

このような話し合いを何度も重ねました。言葉を使って自分の意見を言い、人の意見を聞く。時間をかけて、意見が一つになっていく様子には目を見張るものがありました。

 

 

一方で、なかなか意見が一つにまとまらない時、こんな声が聞こえてくることもありました。「もうゆうきさんが決めてよ〜。ゆうきさんがからっぽチームの船長なんだから〜」と。半ば投げやりにも聞こえたこの言葉。私はとても複雑な気持ちがしました。というのも、私は今回の旅の機会を「子どもたちの思いを子どもたち自身が決定する」機会として捉えていたからです。普段のやまのこの生活の中では、子どもたちが個人としてやりたいことを選ぶことはできますが、集団で協働して一つのことを選択する機会はあまりありません。だからこそ、チームで話し合って一つの選択を導き出す経験が、子どもたちにとって良いチャレンジになると思っていました。バスで行ってもいいし、歩いて行ってもいい。行き方や目的地がどこであるかよりも、子どもたちが自分たちで話し合って自分たちで決めることこそが大事だと思っていました。

そう思っていたからこそ、大人に決められることを求める発言が出てきたこと、そして、私自身が決める立場にいる人だと子どもたちに認識されていたことに複雑な思いがしたのです。「ゆうきさんが決めてよ」という一言は自分自身の在り方を反省させられる一言でした。私の中で、話し合いをするからには終着点を設けたいという意識があり、どことなく言動に作用していたのかもしれません。限られた時間と人的資源の中で、どこまで子どもが選択したり、迷ったりすることを受け入れる環境を準備できるか。そしてそれは私個人の身の振る舞い方で解決できる問題なのか。私の中にも一つの問いが立ちました。

「楽しさと葛藤」

二回目の旅、行き先をイオンモールに選び、駄菓子屋やゲームセンターで遊んだからっぽチーム。帰りのバスに乗り遅れないようにイオンの階段を降りていると、Fちゃんが「あ〜我慢できて良かった〜。」とほっとしたように言いました。イオンで過ごす時間が「楽しい」ものだと思っていた私は、Moちゃんの口から「我慢」という言葉が出てきたことに驚きました。

お菓子、ガチャガチャ、ゲームなどの魅力的なものに対して、自分の持っている300円をどう使うかを考える。イオンで遊んだ時間は「楽しい」だけではなく、「葛藤」や「我慢」といった複雑に心が動いていた時間だったのです。Aちゃんは、駄菓子屋さんのたくさんのお菓子とその値札の中から、自分の持っている300円でどのお菓子なら買えるのかを考えていました。79円は買えるとわかったAちゃんは、たくさんある値札の中から「79」の数字が書いてある値札を探していました。Bくんは自分の持っているコインの残りの枚数を数えながらいつ次のゲームに移ろうかを考えていました。

「ガチャガチャを作る」

からっぽ会議でイオンに行こう!と話が決まった時、個人的に頭を悩ませたのは、保育園の園外活動で、ゲームセンターに行くことにどんな意味を見出せるだろう、ということでした。保護者の方々はどう感じるだろう。私は少し不安でした。各ご家庭の方針でゲームやお菓子に触れている家庭もあるでしょうし、そうではないご家庭もあるでしょう。保育者の拓人さんに相談した時に、彼は「消費的な遊びを遠ざけるのもつまらないと思うんです。消費的な遊びをいかに創造性の方へ繋げていけるか。それが僕たち保育者のするべきことのような気がします。」と言っていました。

保育者としてはそんなことを考えながら、イオンの旅から保育園に帰ってきて、みんなが最初にやったことは、イオンで夢中になったガチャガチャを自分たちで作ることでした。保育者が促すまでもなく、自発的にそれが起こったのです。段ボールにハサミで穴を開け、お金を入れるところ、回すところ、ガチャガチャが出てくるところを作っています。Bくんが言い出して、Eちゃん、Gくんの3人が協力して作っています。その集中力たるや、凄まじいものでした。イオンで見たガチャガチャのイメージを、段ボールを使って形にしていくその手先。真剣な眼差し。彼らがゲームセンターの消費的な遊びの経験をごく自然に、創造的な遊びに変えていることに尊敬の念を抱きました。

 

 

「もうどこにでもいける」

最後の旅の目的地は、歩いて片道2時間もかかるCちゃんの家でした。行きは順調に歩き、Cちゃんの家に無事に辿り着きました。帰り道も順調に歩き続けていましたが、終盤に雨が降ってきました。雨と風に加えて、歩き続けてきた疲れで心がくじかけてきたように見えたからっぽチーム。時折見える虹に励まされながら、見慣れた道に差し掛かると、徐々にみんなは元気を取り戻してきました。その時でした。Hちゃんが「からっぽチームはもうどこにでも行けるね〜!」と嬉しそうに言ったのです。その声は歩き切った達成感と自分たちに対する自信に満ちているように聞こえました。何気なく言った彼の一言は今までのからっぽの旅を端的に総括してくれているように感じました。

往復2時間歩いた初回の旅にて終盤の一枚。元気な人も、疲れた人も。最終回の旅では、全員が往復4時間を歩ききりました。

 

子どもたちが意見をぶつけ合い、私自身が大人としてどのように身を置くかも悩みながら進んできたからっぽチームの旅プロジェクト。保育者として私が悩み迷っているすぐ横で、子どもたちはさまざまな学びを体験したようです。

私自身は、失敗こそが最大の学びだと考えています。目的地に辿り着かなかったり、話し合ってみたけど決まらない、そんなことがあっていいのではないかと思うのです。子どもたちが失敗する経験を、いかに保障することができるか。それを考える中で、私は子どもの育ちを見守る大人(例えば保育者と保護者)がお互いの価値観を交換しながら、共に歩んでいくことが、子どもたちの選択と失敗を受け入れることができる環境を作るのではないかと思うようになりました。私自身、保育者としての探究を進めながら、大人同士のコミュニケーションにも目を向けて、コミュニティのあり方の探究を進めていけたらと思います。

 

 

 

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